「ええ〜っと次はぁ…隣町のお得意様かぁ………」
ウェッジ配達は有名な宅配企業。
企業と言っても、働いている人数は彼1人。
理由は簡単。
企業を立ち上げたのは、まぎれもなく彼、『レイナード=ウェッジ』本人だから。
物を届けるという概念が薄いこの時代、青年は『世間の役に立ちたい!』という若くして熱い情熱に突き動かされ、この企業を設立した。
夢は………世界中にウェッジ配達の名を轟かせること!
その希望は、遠い遠い夢物語…のはずだった………。
「ありがとうございました!! またいつでもご利用ください!」
「いつもありがとね、レイ。 ………そうだ! お茶でも飲んでいかない?」
「あ、いやぁ…まだ仕事が残ってるんで………ま、またの機会に!!」
逃げるようにその場を後にする。
「ああん、ちょっと! …もう……また逃がしちゃった………。 まぁいっか……また何か運んでもらえばいいんだし………その時はもっと強引に……ふふっ♪」
ブツブツ言いながら扉を閉める。
「はぁ……最近あぁゆうお客さん多いんだよなぁ………」
企業を立ち上げて早5年。
25になった僕は、未だ仕事に明け暮れている。
でもそのおかげで、この大陸でウェッジ配達の名を知らぬ者はほとんどいない。
良く頑張ったなぁ…我ながら感心するよ………。
………。
さっきみたいなお客さん(20代独身女性 主にお嬢様)が増え始めたのは、ちょうど去年の今頃。
利用してくれるのは嬉しいんだけど………お茶の誘いやらデートの誘いやら、配達と関係ない話を切り出されて、正直困っている。
やめてください!……とは言えないしなぁ………仕事柄。
そろそろ身を固めろってことかな………?
いつまでもああ言ったお誘いを受けるわけにはいかないし………。
あ〜〜〜やめやめ!
先に仕事を片づけないと………!
次はぁ……ええっと……………………………………………
結局、朝から晩まで大陸中を走り回った。
いつものことだけどね。
おかげで無駄に体力が付いちゃったよ。
あぁ…てゆうか…今日はもう寝よ………。
明日は月に一度の定休日、昼まで寝てても罰は当たらないよね………。
…結婚なんて……僕にはまだ……早いよ………。
疲れ切った体は、すぐにレイナードを夢の世界へと誘い込んだ…………
「ええっと〜…この荷物はアグリアスさん…これはミルウーダさん…こっちは……」
早朝5時。
早く目が覚めたから、配達物の整理をしている。
これをしないと落ち着かないんだよねぇ………。
………ってあれ?
僕なんで早く起きてるんだろ?
………まぁいっか。 もう眠くないし、それにいつもの事だから。
これが終わったら散歩にでも行こうかな………。
「うう〜〜〜〜〜ん………はぁ〜……仕事の無い朝は、また一味違うなぁ」
荷物整理を終わらせ、まだ日の昇りきらない草原をゆっくりと歩く。
特に行き先は決めていない。
どうしようかなぁ………海で砂浜ダッシュでもしようかな?
休日だからって怠けてると、仕事の時に動けなくなっちゃうし。
………いや、休日だからちゃんと休むべきかな?
う〜〜〜ん………着いてから考えよう!
………って、もう着いちゃったし。
さぁて………どうしようかな?
………。
何にもすること無いなぁ………。
良く考えると、僕には仕事しかない。
趣味は配達、特技も配達………配達は特技じゃないか。
じゃぁ………荷物を早く届けられること!!
………結局は配達か。
お客さんから『まだ独身ですよね?』っと良く聞かれるようになってから、自分の生活や立場を少し考えるようになった。
やっぱり、いつまでも独り身じゃダメだよね………もう25なわけだし………。
でも………僕には結婚を前向きに考えられない訳がある。
仮に僕が結婚したとしよう。
そして僕には配達という大事な仕事がある。
するとどうなるか………。
僕が仕事に行っている間、妻はずっと家で…僕の帰りを1人寂しく待っているってことになる。
考え過ぎかなぁ……でも、そうなる可能性は十分にある。
結婚しても………僕は自分の妻を、きっと悲しませてしまう。
そんなのは嫌だよ…絶対………。
砂浜に座り、波の満ち引きをボンヤリと眺めながら、そんなことを考える。
「僕には…女性を幸せにすることが…できないのかな…………」
マイナス思考をどうしても振り払えない。
僕が家庭を持つときは、その時はきっと、僕が仕事を辞めた後なんだろうな………。
仕事を辞めるなんて…考えられないけど………。
「だったら……ずっと独りの方が…誰も悲しませずに済む………」
そうだ………その方がいい。
こうやって今まで通り、他人を寄せ付けないようにすれば………。
………
「ねえねえ、お兄さん♪」
「………」
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