偽物の黒魔術

アパートの一室。
…暗い部屋で、一人の男がPCに齧り付いている。最低限の生活家電すらしばらく使われた形跡がなく、ワンルームの室内にはゴミと黒魔術じみたガラクタと、何か儀式をしたであろうおぞましいラクガキが散乱していた。
……狂気。一言で表すならばそんな部屋である。
現実から目を背け、救いを求めるように、男は黒魔術の探求に没頭していた。

彼の名はヤマオカケイスケ。
角と翼と羽の生えた女に出会う為に、働きもせず、こんな事を数年は続けている。

彼は社会不適合者である。努力する者を嗤い、失敗した者を嘲り、社会全てを見下しながら生きてきた。
何より、彼は大の人間嫌いだ。彼の理想はゲームやアニメ、漫画の中にある。現実の愚かで腐った人間など、目に入れたくもない。
…大学を中退した彼は、自らを世界から隔離した。
世界に意味を見いだせず、ただ無為に人生を消費するだけの道を選んだのだ。

しかし、そんな彼の価値観を一変させる出来事が起きた。
黒い翼と角が生えた女が、空を飛んでいたのだ。
人ではない者の存在を知った彼は、世界に希望を見出した。
…再び彼女に逢いたい。その一心であらゆる情報を当たった。無駄に高いプライドから無知を認めたくない男は、ろくに調べ物なぞした事はなく、成果は芳しくなかった。今日もこうして、碌な情報も書かれていないアフィリエイト記事を漁っている。

「……ん?なんだよこれ?」

気になる記事を見つけた。『本当にサキュバスと出会う方法』。そのままスクロールしてしまおうかと悩んだが、少し興味が湧いた。
…展開されたのは、ありがちなフォントと、それらしい雰囲気のフリー素材が貼られた、よくあるアフィリエイト記事だ。

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★貴方は、サキュバスをご存知ですか?サキュバスとは、角と翼、尻尾が生えた女性型の魔物です。空想上の存在だと思われているサキュバスですが、今回は、そんなサキュバスとの出会い方をご紹介します。

★ますはじめに、このサイト以外のあらゆる記事は間違っているので、この記事以外は信じないで下さい。サキュバスは人が大好きで、愛に溢れた種族です。

【貴方が私の言う事を信じ、私の言う通りにするなら、そのまま下にスクロールして下さい。】

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何だこの記事は。書いてある内容が胡散臭すぎるし、アフィリエイトの分際で自分以外の記事が間違ってるなどと宣っている。何より、私の言う事を信じろって?馬鹿馬鹿しい。しかし、こんな調子でこの先に何が書いてあるのかが気になった。内心小馬鹿にしながらページを下にスクロールする。
…しかし、いつまで経っても次の文章が出てこない。どんなにスクロールしても、ページを更新しても、延々と白い背景が続いているだけだ。
…何を期待していたのだろう、とページをタブごと消去した。

……やはりネットなどに頼るのが間違っていたのだ。彼はPCを閉じると、本を一冊手に取る。中身は黒魔術について書かれている。
…人で無い者なら、きっと魔法か何かで呼び出せるはずだ、と彼は漫画とゲームの知識で考え、辿りついたのが黒魔術だ。しかし、「人でない女の手掛かりを探す」という先の見えない探求に疲れた彼の中で、手段が目的にすり替わりつつあった。オカルトが持つ「自分を特別だと思わせる」誘惑に抗えなかったのだ。彼は持っていた所持品の殆どを売り払い、その金で黒魔術の本や儀式の道具を買い漁った。
…無論、そんなものが本物である筈はないのだが、彼にはもはや、現実など見えてなかった。

…彼は数週間、薄暗い部屋で彼は黒魔術に関する文献を読み漁った。食事もろくに摂らず、気絶するまで睡眠を取らず、ひたすらに。
その結果、彼は発狂した。いや悟りを開いたと言ってよい。そして彼は自ら計画を実行に移した。多次元に散らばる自らの分霊を一箇所に集める事で異界の悪魔を召喚し、自身の併合を以て自分は全能の存在となるのだ。
…今の彼には妄想と現実の区別などつかない。自分が何を考え、何をしようとしているのか認知する事すら怪しい状態になっていた。病院に行けば精神病の診断が下り、そのまま措置入院になっていただろう。それくらい彼は危険な状態だった。しかし、親や友人に距離を置かれた彼には、彼を気にかけてくれる者は誰も居なかった。
ただ一人、彼が呼び出した悪魔を除いては…


…………

「…気分はどう?」

…知らない女の声で目を覚ます。
部屋には明かりがついている、外はもう夜のようだ。

「だれだ…おまえ…?」
「通りすがりの悪魔…とでも言っておこうかしら?」

そして自分の状況に気づく、俺は膝枕をされているらしい。
…身体を起こすとそこには、人ではない女が居た。青
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