あくまのとっても弱いとこ

「なあ、圭」
 友人は机の向かいで菓子パンを頬張りつつ、小鼻をひくつかせた。
「やっぱり、すげぇの?」
 その質問は唐突な上、主語が抜けていた。
「なにが?」
 僕が首を捻ると、彼は辺りを憚るように声を潜めて言った。
「お前の彼女、魔物娘だろ」
「ああ、そーゆー」
 下世話なヤツめ、と切って捨てたいところだが、僕とて彼と同じ思春期男児ということもあり、ついつい甘くなってしまう。
「なあ、どうなんだよ」
「どうって……別に」
 言いつつ、僕の恋人――真琴のほうへ目をやる。すでに昼食を食べ終えたらしく友人たちと机の上に腰掛けて談笑している(行儀悪いが、まあ女子なんてそんなもんだ)。彼女は他の女の子と比べるとかなり小柄で、こうして見ると小学生くらいに見える。凹凸のないスタイルと二つ結びの髪、制服の着こなしはいわゆるギャルっぽい感じで、性格のほうもそれらとよく似合うハキハキとしたものだ。しかし、それら以上に彼女を特徴づけているのは青い肌と、真っ暗な目に浮かぶ赤い瞳である。それから学校では隠しているそうだがお尻には尻尾、背中には翼を持っていて、二人きりのとき――もっぱらセックスをするときにだけ見せてくれる。
 あーあー、スカート短くしてんだから机の上であぐらなんかかいてるとパンツ見えるぞー。なんて思いながら見ていると、彼女はさすがに勘がいい。僕の視線に気づいてこちらへ振り返ってきた。そして、ふふんと笑ったかと思うと、制服のスカートの裾を持ち上げた。へえ、今日は水玉模様なんだな――って、そうじゃないだろう! と自分にツッコミを入れて目をそらす。
「ん? どしたん?」
 机向かいの友人は、僕の挙動不審に訝しげな目を向けた。
「あ、いや……なんでも」
 真琴たちのグループからワッと笑いが沸き立ち、友人はそれを一瞥して(そのときにはすでに真琴はスカートから手を離していて安心した)、先の質問を繰り返した。
「で、どうなんだ」
「いや……人に話すようなことじゃないだろう」
「別に事細かに話せって言ってるわけじゃない。すごいか、すごくないか。それだけ訊きたいんだよ」
 僕はうーん、と唸った。真琴とのセックスは、それはもうすごい。
 僕と真琴は小学生からの知り合いで、高校へ入学して同じクラスになると互いに意識し始めて――と、まあ馴れ初め(と言うのも大げさか)はよくあるものだ。付き合ってから初めてセックスをしたのは高校二年の夏休み。小学校から一緒だっただけあって家は近く、「遊びにおいでよ」と誘われて、二十分もかからず真琴の家の戸を叩いた。昼食をごちそうになって、少しばかり宿題をやって、段々と会話の弾まなくなってくるのが変な陶酔感を起こし始める。二人でベッドの縁に腰を下ろして、どちらからか先にキスをした。抱き合って、もつれ合ったままベッドに倒れ込むまではよかった。真琴はあっという間に服を脱いだかと思うと、あっという間に僕の服も脱がしてしまった。
 僕はもちろん、真琴も初めてだったのだが、魔物娘はセックスに天性の才能があるらしい。真琴はすぐに僕の弱いところを把握したらしく、僕は骨抜きにされてしまった。真琴は手指をペニスに絡め、柔らかい唇に呑み込んで、半ば強引に射精させられた。それから真琴は僕の上へ馬乗りになって休む間もなく腰を振った。胸元に突いた手は抜け目なく僕の乳首を弄び、自らの痴態を魅せつけるように身体を弓なりに逸らした。こちらが反撃する隙もない、まさしく骨の髄まで搾り取られるようなセックスだった。
 強烈な初体験だったことは確かだ。そして、正直に言って最高に気持ちの良いものだった。だが、自然と、真琴がリードする側、僕がリードされる側という構図ができてしまった。
 それに不満はない。僕は真琴が大好きだし、真琴も僕を翻弄するようなセックスが気に入っているようだったから、なにも問題はない。不満も問題もないのだが――ただひとつの引っ掛かりがあった。
 それは僕と真琴の体格差だった。真琴の身長は140センチに届かないくらいで、女子高校生の平均身長が157センチであることを考えればかなり小柄な部類だろう。並んで立つと、ちょうど胸元に真琴の頭がある。これだけの体格差がありながらセックスではまったく圧倒されて、僕のささやかなプライドがすすり泣いているのだった。まあ、このまま弄ばれるのも悪くないと思うのだが(デビルを恋人にした男独特の思考だろうか)、人様と恋人の話になったとき少しばかり恥ずかしいとも感じてしまう。
 さて、僕は改めて机の向かいの彼へと目を向けて、うまいこと話題を変えようと試みた。
「どうしたって、そんなにしつこく訊くんだよ?」
「いやぁ、うちのカミさんがね」彼は自分の恋人をカミさんと呼ぶのだった。
「サキュバスになりたいとかって言ってて」
「はあ」
「そ
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