「クソ、何だってんだ……」
降りしきる雨の中、大きな木の下で雨宿りしながら紙タバコに火をつける。残り少ないタバコが湿気てないのは幸いだった。
大きく息を吸って、長く煙を吐く。濡れた背広を脱ぐと、ちょっと肩が軽くなる。
そうすると少し気分は落ち着いてくるが、状況は好転したわけではない。
この原色塗れの明るい世界に迷い込んでからというもの、体験したのはおよそまともではない事態ばかり。
道端で眠る少女に彼女を乱暴に犯す男、それを微笑ましく見守る男装の少女が白濁液塗れだったり、雨かと思えば空を飛ぶ鳥がまぐわいながら愛液を撒き散らしていたり、今度こそ雨だと思いきやそれは紫がかっていて触れると妙に身体が熱くなるし……今も勃起はおさまっていない。
「大変ね」
今も、大木の根から猛然と生えたキノコが、木のうろを犯すかのように前後してどろりとした白濁液を垂らしているし、すぐそばに生えていた大きなキノコの上では下半身が芋虫の女性がぷかりと煙を吐き出している。
対抗するように長く白煙を吹き出す。
「散々だ」
「そう……この雨はしばらく続くと思うよ。紫色だし。座ったら?」
「……しばらく雨宿りか。しょうがない」
彼女はぼんやりと遠くを見たまま気怠げに青髪をかき上げて、シーシャの吸口を口に含んだ。
やれやれと疲れた腰を下ろすと、ぬめるような濃い紫色の煙がくらりと漂い顔を撫でていく。
「……ところで、君は誰だ?」
いつの間にかすぐそばにいた女性に誰何する。ここの人々を見てきた以上、まともであることは期待していないが、それでも彼女は理性を持ち合わせていそうに見えた。
「私は……私はなんなんだろうね。君はなぜここに?」
「俺も分からん」そして続ける。「君は?」
「ああ」
隣に座る彼女とその時初めて目が合った。とても綺麗な、菫色の瞳だった。
「私は風香と読むの。風の香りね。いい匂いがするでしょ?」
目の前の彼女が、至近距離で煙を吐き掛けてくる。とろりと脳が溶けるような花の香りがした。
「ああ」
一つ頷いて、残り少ないタバコを取り出そうとしてショックを受けた。いつのまにか雨紫に濡れている。
がくりと肩を落とすと、風香が恐る恐るシーシャを差し出してくる。
「吸う?」
「悪いよ」
吸口は一本しかないから使わせて貰うのは流石に申し訳ない。苦笑する俺をよそに、彼女は俺の手を取る。
「いいの。私は変わりのがあるから」
「そうか? ……ありがとう」
風香が吸っていた跡は紫色に濡れていて、咥えてみると涼やかながら濃厚な花の味がする。
吐き出す煙はふんわりと、彼女の瞳のような色をしていた。
俺の人差し指をちゅぷりと咥えた風香はそっと首を傾げた。
「どう?」
「美味いよ」
蜜を鼻から肺まで流したような感覚は、今までに味わったことのないものだ。
彼女が機嫌良さげにひゅるりと息を吸うと、唾液で濡れた指が少し冷たい。それを温めるように舌が優しく撫でてくる。
「美味いの? 俺の指」
「とても」
ふう、と吐かれた息は相も変わらず薄紫色で、とても美味そうに目を細めるものだからついついその息を吸ってしまった。
彼女の吐息は煙に比べると味は薄いが、その分爽やかで後味がいい。
それを見た風香は指から口を外すと、俺が吐いた紫煙をすうっと吸い込んだ。
と思いきや。
「けほっ! ぇほっ!?」
「何してんの」
俺の腹に顔を押しつけて盛大に咳き込んだ風香は、少しして顔を上げると煙を漏らしてえへ、と笑った。
理知的に見えるのに、可愛いところもあるもんだ。
「美味しそうで、つい」
「いや……」
そんなわけないだろ、と言おうとして自分が直前にした行動を思い出して踏みとどまった。
どの口が言うのかという話だ。
改めて風香が口から漏らした煙を吸うと、華やいだような幸せに包まれた。
やはり美味い。
もしかしたら俺の吐き出す煙も美味いのかもしれないと思い、今度は風香が慌てないようにゆっくりと細く吐き出してみる。
俺の身体に斜めに乗り上げて煙を飲み込んでいく彼女の表情からは、同じような幸福感に包まれていることが伝わってくる。
何度かそうしていると、いつの間にか唇に柔らかいものが触れていた。
至近距離にある彼女の目が恍惚に細まり、ちゅ、と柔らかな肉が蠢いた。
応えるように口を動かす。唇の隙間から漏れた薄紫がくゆれて消えた。
ぎゅうと抱きしめられ、更に隙間が埋まる。挟まれた大きな胸がむにゅりと歪んで、えも言われぬ感触が伝わってくる。
「ちゅ……ん……ぁっ」
歪んではみ出た部分を指で押し込むと、柔らかく唇を食んでいた風香が喘ぎを漏らす。紫煙を漏らす。
心
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