ギャンブルマウントデーモン

テーブルゲーム同好会。
別名ギャンブル部。

といっても、金を掛けるわけではない。
流石にそれは先生方が許してはくれない。

ここで掛けられるのは。

「赤に2時間」

チップを積む。
掛けるのは己の自由。
即ち、時間であった。

生徒たちが見守る中、ルーレットが回転し、止まったのはーー。

「Red、5」

ディーラーが数字を告げる。
赤の5。歓声が上がる。

「良しッ!」

赤黒の倍率は二倍。つまり、4時間が俺に支払われる。
俺は大きくマイナスが減ったことを喜んだ。
現在-8時間。
かなり大掛かりなことを押し付けられる可能性があった。少しでも減らしておきたい。

「ダッチー、勝っちゃったの?」

引っ越しを手伝わせるために俺を12時間買うと豪語していた先輩が頬を膨らませた。

「まだまだこれからだけどな……」

ミニマムベットは10分。マックスは24時間だ。
4時間はそれなりに大きい収穫だった。
このまま掛けるか否か。
ルーレットは運要素が大きすぎる。

俺は席を立ち、部屋の隅に用意された卓へと着席した。

「掛けろよ、先輩」

「……本当にいいの?」

麻雀だ。
先輩は今プラス20時間。大勝ちだ。
このギャンブル部で唯一、24時間を超えて負ける可能性のある麻雀だが、逆に言えば24時間を超えて勝つ可能性もある。

先輩の顔が、デーモンらしく悪魔的に歪んだ。

「ふーん、いいじゃん。相手したげる」

ゲームスタートだ。





三色平和の三向聴。
ツモ次第ではタンヤオも見れるかなりの良型だ。ドラは北。俺の風だが、一枚もない以上流石に使えないと見たほうがいいだろう。

親は下家。南3局、半荘だから俺の親はもうない。
俺も浮いてはいるが、対面の先輩にはまだ親が残っている上に沈みも僅かだ。

この配牌、モノにせねば。
一巡目、ツモは八索。重なった。打一筒。

上家下家も同様に焦りが見える。
下家は沈んでいる。この親を活かしたいところだろう。
下家は打西。

「ポン」

上家が仕掛けた。微浮きのまま逃げ切るつもりか。
打北。ドラだ。間違いなく逃げ切りコースだ。

ツモは六萬。
悪くない。五萬がくれば一四七三面張の形になる。
打南。

「ポン」

対面の先輩が頬を緩めた。
ダブ南。早めの上がり狙いか。
そのまま打六索、打三筒と続いていく。

そして存外平和に進んで九巡目。
發を切れば一四七萬の三面張。リーピン、一萬以外でタンヤオ三色の付く超良型。
しかし現状一枚も切れていない發を切るのはリスクが高い。三元牌は中が切れている以上大三元はないだろうが。

先輩は笑みを堪え切れないとばかりに口元を歪め、上家も焦ったように目をギラつかせている。

ブラフか?
上家はツモ切りが続いている。十中八九索子の低め。發で当たっても高くないから心配しなくていい。
次に先輩だ。捨て牌に端牌が多いな。チャンタはない。南を鳴いたのはさっさと上がって親を回したいからだとする。ならば上がりやすい平たい待ちか……? 手出しも多く、手の組み替えの最中の線もある。直前が手出しの打二萬。あってもただのポンだろう。
此の期に及んで動きのない親が一番臭い。が、河からして思ったように進んでなさそうだ。当たったとしても安く済む、と祈りたい。

いける。俺は發を手に取った。

「リーチッ!」

カチャ、と牌が音を立てた。

先輩が興奮に笑みを浮かべた。青い肌に赤が僅かに滲む。目が細まった。

「ロン」

手牌がカチャカチャと整えられてから倒される。
發發北北東東東白白白。そして南南南。

字一色。問答無用で役満だ。

「ば、バカな……」

捨て牌には東一枚、中が二枚。それ以外の字牌はない。
無駄ヅモが無さすぎる。その上、中を先に切って要らないものを残す動きで隠している。4枚目の東まで……。
俺は呻いた。
読めるかっ……こんなもんっ……!!

「役満。32000点でーす」

先輩の笑みが花開いた。紛れもなく、俺を搦めとる食肉植物の花弁だ。
役満祝儀は10時間なので、これで18時間の負け。

もう点は殆ど残っていない。
そして親は先輩だ。
俺は絶望の中に光を見出すことはできなかった。
先輩の三巡目リーチに振り込んでアッサリと飛んだ。
視界がぐにゃりと歪んだ気がした。無理。



俺は累計で-62時間にもなって、それをまとめて先輩が買い上げた。デーモンである先輩にとって、この"時間"のやり取りは非常にしっくりくるらしい。
先輩はやたらご機嫌だ。

二日と半日分だ。通学時間はルール上ノーカンなので、月曜まで後を引くことになる。
土曜の午前零時、用意を終えた俺は先輩の家に連れられていた。静けさにとことこと靴の音が響く。

「ダッチーが二日間私のものなのかぁ」

「わかってるだろうけど」


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