僕は、何度か彼女らの宗教について尋ねたことがあります。
しかし、彼女らの回答は大抵の場合微笑みだけで、何もわからないままなのです。
ある日、僕はアーティと二人の日に尋ねてみました。
アーティは聞き分けのない子供を許すように微笑み、そして名前を教えてくれました。
「私たちは、ーーーーっていう神さまを信じてるの」
「なんて?」
「ーーーー」
僕はうまく聞き取れずに確かめたものの、結局聞き取れないままでした。
それは何というか、音にならない息漏れで構成された名前で、僕はきょとんとしていました。それはおよそ、人間というか動物の鳴き声からも程遠いものでした。
「元々遠い宇宙にいたらしいからね」
アーティの話では、それが地球の海に落ちて、ゆっくりと信仰を広げてきたのだそうです。つまりは宇宙人です。
とても信じがたい話ですが、彼女らの持つ知識を鑑みるに真実のようでした。
「まあ、本気で信じてるかって言われたら困るんだけど」
アーティは笑いました。腹筋が動き、不規則に肉棒が刺激されました。
彼女らマインドフレイアは、ただ眷属を増やせとしか言われてないらしく、それは魔物娘となっても変わらないどころか本能からそれを望むようになったので、信じようが信じまいが変わらない状態だそうです。
僕は尋ねました。
じゃあ、何を心の拠り所としているのかと。
アーティは僕に頬を擦り付けながら言います。
「それは男だね。私たちは男のために社会を発展させてきたし、男がいることを前提に作られている部分も多い。なにより、今後もし男に会えないとなったら、きっと発狂してしまう」
魔物娘と化してからは、それがますます強烈になったらしい。
アーティは恥ずかしそうに、自分が医者になったのも男に関わるためだと告白しました。それが可愛らしくて僕は射精しました。
ある日、僕はベルティアに神の存在について問いました。ベルティアは面倒くさそうな顔をして、僕に一人の女性を紹介してくれました。
それが哲学者のウンベラータとの出会いです。
「神の存在だが」ウンベラータは大きな触手をふらりと波打たせました。「思考に値しない」
それはどういうことかと僕が尋ねると、彼女は「神は明確に存在するからだ」と言います。
「神を全知全能のものとする人間の宗教観とは違い、我々にとっての神は観測可能な強大な一個人に過ぎない。それは存在する理由を持ち、存在するべくして存在している。役割を持つだけの力を所有しているのだ」
しかし、とウンベラータは続けます。
「存在の是非を問うならばそれは我々にある。我々マインドフレイアは本来手をつけられぬ精神というものに明確に浸食できる。それは自我という唯一の確信を揺るがすことで、概ねタブーとされる」
「そうなんですか」
「そうなのだ。例えば、君はこの国に来て、何がしかの性的嗜好を植え付けられただろう?」
「確かに突然眼鏡っ娘好きになりました……」
「なに、それは」ウンベラータはさりげなく眼鏡をかけました。「そんな馬鹿なことをするやつがいるのか。まあいい。ともかく、そういった思想や嗜好は本来他者により影響されることこそあれ、直接操作されるものではないのだ。同時に、魔物娘という存在の本質がここにある」
「本質?」僕は首を傾げました。
「魔物娘は、社会により抑圧された他者に強く影響することが可能なのだ。その影響の方向が概ね性的快楽に向いているからこそ、我々魔物娘は社会を構成する上位者、つまり抑圧から漸次的に解放するための存在として組み込まれたのだ」
ゆえに私はこう考えている。とウンベラータは締めた。
「我々のように、下位者を確実に操作できる社会的上位者がいてしまうと、下位者が瞬時にかつ完全に抑圧から解放されてしまい、社会の構成を維持することが不可能になってしまう。ゆえに、こうして地下に潜み、情報も隠されているのだ」
社会とは人間が増えるための機構であり、それは我々にとっても必要なのだ、とウンベラータは複雑な顔をして言った。
その後も色々な人に神について尋ねましたが、いまいち要領を得ません。数々の話を聞けたのですが、それがどうもしっくりこないのです。
難しい顔をしていると、騎乗位でへそに触手を突っ込んでいたトニアが不安そうに首を傾げました。
「気持ち良くない?」
「いや、気持ちいいよ」
僕はふと思い立って、トニアに神さまについて尋ねました。
トニアはきょとんとしました。
「いつも見てるのに?」
ははあ。僕はしたり顔をしました。もしかして見えてはいけないものが見えるタイプなのでは、と思っていると、トニアが窓の外を指さします。
挿入したまま窓のそばに行きますが、特に不思議なものはありません。ごく普通の街並みが見えます。
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