目を通した原稿から視線を上げると、どこかぼんやりした先生がこちらを不安そうに見上げていた。
「先生、今月の原稿はとりあえずOKです。推敲あったらまた来ます」
「ん……」
先生は雷獣だ。
原稿を傷めないように常にアースしているためか、ダウナーな性格をしている。
そしてアースしていても不安なのか電化製品を一切使わないため、この時代には珍しいフルアナログの漫画家だ。
ただ、電話すらないため全て僕が直接出向く必要がある。
「中村」
帰ろうとしている僕を先生が呼び止める。
何かあったのかと目線を投げると、先生は目を逸らして恥ずかしそうに言った。
「アレ。してほしい……」
僕と先生が先月から始めたのが、マッサージだ。
前にいたアシスタントが辞めてからというもの、先生の身体は固まっていくばっかりだった。
見るからに体調が悪くなっていた先生に事情を聞くと、前はそのアシスタントがマッサージをしてくれていた、と言われ。
僕がやることとなったのだ。
僕は小さくを唾を飲んだ。
このマッサージが曲者なのだ。僕がさっさと帰ろうとしたのには理由がある。
手を引かれ、座り込んだ先生につられて正座。電線として床に細かく引かれた金属が当たって少し痛い。言われるがままにその細い肩を掴む。
こんな子供みたいな体格、折れてしまいそうな腕でさえ僕よりも力があるんだから不思議なものだ。
「あっ」
ぐっと力を入れると先生が熱っぽい息を吐く。
ばちりと静電気が生まれ、ふわりと浮いたサラサラの髪が僕の腕に纏わりつく。僕にもじんわりと電流が流れる。
それは僕の身体を伝って、アース用に床に引いた金属線へと逃げていく。
尻尾の先端がが気持ち良さげにゆらゆらと揺れた。
今月もまた、一段と凝っている。
「ずっとアースしてたから……」
先生が言い訳するように言った。
本来なら身体に流れている電流が勝手に身体を解してくれる。しかしアースしているとそれがなくなる。
だから僕が代わりに解しているのだが。
「んっ、ふぅっ」
先生の浮いた声が、縋るように絡まる髪を伝った電流が、僕の熱をくすぐるように刺激する。
誤魔化すように腕に力を入れると、ほんのちょっとだけ強い電流が誤魔化しを咎めるように僕の身体を荒らす。
これがこのマッサージが曲者たる由縁だ。
長い黒髪の獣系幼女。先生は真っ当な成人女性だが、後ろ姿がどう見ても幼女だ。ただお尻だけはなかなか大きい。
先生が成人しているのは知っている。
同級生だからだ。なんなら小学生、中学生時代の写真もある。
ただ、その頃から二十年ほど経った今でも、先生の身体は成長していないだけだ。お尻は昔から大きかった。これは間違い無い。
僕はこれを続けていけばそのうちロリコンになるのではないかと恐怖している。
「中村……?」
僕がぼーっとして腕を止めていたからか、先生が肩越しにこちらを見る。ぴくぴくと頭上の獣耳が動く。
不思議そうに瞬く眠たげな蒼い瞳。紅潮している頬が愛らしい。
本当のところを言うと僕はもう既にダメだった。
恐怖しているのは、先生以外に反応しやしないだろうな、という点だ。
「あ。あ、すいません。腕揉みますね」
実のところ、肩を揉んでいるうちはまだマシなのだ。
厄介なことにアシスタントだったアラクネさんは、実に丁寧に全身を揉み解していた。
そのせいで僕は、なんとか胴体は免れたものの、腕と脚の全てを丹念にマッサージしなければならなくなっている。
先生が少しこちらに寄る。
長い髪がふわりと僕の腹に張り付く。シャンプーのいい匂いに酩酊しそうになった。尻尾が僕の膝に当たった。
先生の二の腕は細い。そして本来は柔らかいそれが、絵を描き続けて酷使され、強張っている。
僕はそっと指を沈めた。
「ふぁっん」
先生は声を上げたくて上げているわけではない。前にそう聞いた。
ただ、少し気持ちよくなると身体を流れる電流が、勝手に強張りを解して快感を生み、声を上げさせるのだ。
だから僕の下手くそなマッサージでもいいのだ。僕は下腹部を僅かに伝う電流を感じながらも、先生の二の腕を揉み押していた。
「なっ、中村っ」先生の切羽詰まった声がエロい。「脇のところも」
先生はこうしてリクエストを出してくる。そしてその言葉に従うと先生に強い電流が走るのが見てとれる。僕にもちょっとだけ強い電流が流れる。
先生はどうすれば気持ちよくなるかわかっているのだ。
そして、おそらく。それが一般的な性感帯と呼ばれる場所に近いことを理解していない。
いや、理解はしているだろう。しかし実感がないんじゃないか。
元アシスタントのアラクネ、ヤマネさんはかつて僕に言った。
『あの子、絶頂したことないらしいの。オナニーもしないようにしてるって。種族的にし
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