友達たちの所にリリを返してから、礼慈は教室に誰も来ていない内から登校するようになった。
昼には高等部を出て慣れない学食で持ち込んだ弁当を食べ、放課後には帰宅部と競うように学園を早足で出てはその足で繁華街にあるゲームセンターへ赴いて日がとっぷり暮れるまで時を過ごす。
諮問会が終わって文化祭の出し物が出揃うまで生徒会での仕事が無くなってしまったために若干手持ち無沙汰というか、張り合いが無くなってしまったが、それ以外はリリと出会う前の生活に回帰していた。
いや、変化はあった。それも重大な。
これまで肌身離さず持ち歩いていた酒を持ち歩かなくなった。
酒が無くても自分は大丈夫だと、そう思えるようになったのだ。
これは良い変化だと。そう思う。
●
そんな、回帰というよりも健康寄りに改善した生活が続いて数日。店に来ていた顔見知りの客に挨拶をしつつ住居に上がろうとした礼慈は、厨房から顔を出した礼美に呼び止められた。
「遅かったわね礼慈。リリちゃんが来てたよ?」
「……そう?」
一日過ごして少し疲労感を覚えていた体が彼女の名を聞くだけで軽くなる。
友達と遊んだ後にわざわざ寄ってくれたのだろうか。
「上で待ってもらっていたけど、ちょっと前に今日はもう帰るって言って帰っちゃった。
昨日も来てたのにあなたは帰って来るの遅かったし。生徒会の仕事が忙しいの?」
「いや、特に何もないよ。仕事も暇な時期。前話したように、今はリリが友達と仲直りしたばかりでけっこう繊細なタイミングだから邪魔しないようにしてるだけ」
二日も連続してリリが会いに来てくれていたという事実だけで頬が緩んでしまいそうになる。
必然、リリに会いたくなってしまうが、ここはまだ少し我慢しておくべきだろう。
(自制……自制)
「まあ、リリちゃんがしばらく来なくなるとは言われてはいたけれど……」
「うん。そっちで忙しくしてると思ったからこっちに来ててちょっと意外だった。いくら学園近くの街で、母親のエキドナが常に守っているようなものだといっても夜遅くにあの子一人は危ないな。もし明日も来たら、リリにはあまりこっちのことは気にしなくてもいいって伝えといて」
「それは礼慈が直接会って言えば……いえ、確かに遅くなったらちょっと心配だし、来てたらずっと家に居てもらうようにして、礼慈が送っていけばいいんじゃない?」
意味ありげな笑みを見せる礼美に礼慈は苦笑する。
「最近は夜は冷えてくるし、魔物とはいってもあれだけ小さい子を夜歩かせるのはあまりよくないだろう。俺もしばらくは遅くなるつもりだから少しの間、やっぱりリリには早めに帰るように言っておいて」
「それは、いいけど……なんだったらリリちゃんにお泊りしてもらって私が他所に出かけてもいいのよ?」
「いや……それは、リリの父親の心証が良くないよ」
ネハシュや他の姉たちの後押しはあるとはいえ、リリの父親をないがしろにするのは避けたい。
礼慈は「よろしく」と念押しして住居部に引き上げた。
階段を上り切って住居に繋がる扉を開けると、甘い香りが鼻に香る。
テーブルの上にリリたちが作ったらしいクッキーが置いてあった。
礼美のために持って来てくれたのだろう。
バターと柑橘系のピールが混ざった匂いが鼻腔を楽しませる。そんな華やかな香りの中に、礼慈を待っていたのだろうリリを感じて、礼慈は窓を開けた。
冷たい風に顔を打たせて逃げるように自室に行き、ベッドに倒れ込む。
長いため息をついた礼慈は、枕に顔を埋めながら呻いた。
(……まるで禁断症状みたいだな)
変化は、もう一つあった。
礼慈は生活の中で、常にリリのことを考えるようになっていた。
ほとんど四六時中、リリのことが頭の中にある。今もあの妖精のような少女がどのような表情で友達と過ごして、家で家族とどのような会話をしているのだろうと自然に妄想を始めていた。
(リリと離れられないのはまずいだろう。これじゃあこれまでと変わらなくなってしまう)
これではだめだと、押し寄せる煩悩を洗い流すために浴室に向かった。
●
YOU LOSE の文字が浮かぶ画面を見て礼慈は唸る。
今日は生徒会室に居ても本当にやることがなくなってしまったので図書館で本を読んでいたのだが、頭が集中しきらずにそれにも身が入らなかった。
小等部やサバト関係の娘たちの中に金髪が居るとつい気が削がれてしまうので学内に居ることを諦め、繁華街へ出向いた結果、彼は最終的にゲームセンターに身を置いていた。
そこでも楽しんでいるとはいえず、格闘ゲームをしていた手はいつの間にか止まっている。
タコ殴りにされたフルプレートの老騎士キャラが、金髪のロリキャラにどこかへお持
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