「こんなものか」
収穫した野菜を籠に入れ、盛一郎は残った野菜が熟し切っていないことを確認して頷いた。
こうして見回してみると、穂積の家の庭にある畑で作られている野菜にはジパング産ではないものもある。
穂積曰く、結界で囲み続けた結果ここはほとんど妖怪たちの国のような地相になっているため、異界の野菜を作ることができるらしい。
異界の作物は精が付きやすいものが多いと聞く。これまでは伴侶を得ている知り合いの妖怪にほとんどあげていたが、これからは盛一郎に是非たくさん食べて欲しいと穂積は勧めていた。
今となってはどうでもいいことだが、この家に初めて来た日に出された食事にもここの野菜が使われていたのではないかと思いながら、盛一郎は立ち上がって伸びをした。
「今日も快調……!」
穂積の家に世話になり始めてから、満ちていた月が半分に欠けるまでの時間が過ぎていた。
最初の数日の間、彼女は盛一郎を文字通り、片時も手放さずに交わりを求めてきた。盛一郎もそれを喜んで受け入れたが、その間はあまりにも精を放ち過ぎて最後の方になるとほとんど記憶が残っていない有様だった。
そんな生活も腕の傷がなくなる頃には体の方が慣れてきたのか、意識を失わずに済むようになった。
それを少し残念だと言っていた穂積だが、一昨日からは彼女も寂しさが少しは満たされたと別行動をとるようにもなっていた。彼女にとってはこの数日は番が本当に自分の傍にいてくれるのかを確認するための期間だったのではないかと思う。
そう思えばあの快楽に満たされた日々にも穂積の想いが見えるようで、彼女のこれまでが慮られる。
(……が、流石にあれは、常軌を逸していた……)
盛一郎はその場にしゃがみ込んで頭を抱え、深くため息を吐いた。
初めて枕を交わした、その次の日のことだった。
くっついたまま離れたくないという穂積の言う通りにしていたら、来客があった。
山の中でも会ったカラステングで、盛一郎の養家に事情を伝える文を渡すための飛脚として穂積が呼んだものだった。
文を用意しようとした盛一郎だったが、その間も穂積は離れてはくれず、膝に彼女を座らせたまま文を認め、彼女に抱き着かれたままカラステングに文を渡して言伝を頼んだ。
当然のごとく、始終繋がったままでだ。
体に回した二本の尻尾で外からは二人が繋がっているのは分からないと蕩けた目で穂積が言っていたが、部屋中に充満する匂いも濡れそぼった接合部がたてる音も対策を一切していない。カラステングは色々と察したことだろう。
今思えば、匂いも音もやろうと思えば隠せたのだろうが、そもそも離れなかった時点で穂積にその気はなかったのだろう。
若干挙動不審ながらも真面目に対応してくれたカラステングには大変気まずい思いをさせてしまった。
(いつか言伝の件も含めて礼をしなければ)
そのような懸念はあるが、ここで根付くための準備は着々と進んでいた。
進む準備の中でも特に自覚できているのは、やはり体のことだ。
穂積と交わっての意識を落とさないことからも明らかなように、精力が増大している。
穂積の説明によれば、妖怪と愛し合うことによって人はその体を愛し合うための体に作り替えるのだという。
妖怪とまぐわうことによって体が妖怪側に近付くということは、養家の旦那の話を聞いて知っていた。
話に聞いていただけだといまいちどういったものなのかが分からなかったが、自分がそうなってみると、生き物としてはより丈夫になるので不都合はないと実感できる。問題があるとすれば、穂積が欲しくてたまらなくなるくらいだろう。
とはいえ、まだ体が完全に出来上がってはいないのだから結界からは出ないでくれと穂積に言われ、こうして盛一郎は留守番をしている。
別行動中の穂積は、これから盛一郎が共に生活するうえで入用になるであろう品物を買ったり、また人里ともっと積極的に関わるために入用になるであろう金子を作るために作り溜めしていた織物を町に卸しに行っている。
次回は一緒に町に降りて穂積自身の正体を明かし、また盛一郎が自分の夫であるとも紹介したいと言っていたので、どういった挨拶をしたものか考えておいた方が恥をかかずに済むかもしれない。
人前に出るのは慣れていないが、まあ、その時はがんばろうと思いながら盛一郎は収穫物を川の水に浸して、新品同然の道具を手に畑の雑草を取りに向かう。
穂積は畑仕事に関しては大抵妖力を使って済ませていたが、盛一郎ではそうはいかない。税のことを考えずに一人が生活していく糧を得る為、と考えると少し手広い畑の世話は、盛一郎が日常生活に復帰するための慣らしも兼ねていた。
扱っている農具は戦乱の時代、麓の町がまだ村だった頃に献上された貢物の中にあったものだ。
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