朝日に目を細めながら、礼慈は通い慣れた通学路を歩いていた。
結局昨日は日付が変わるまでアスデル家での酒盛りは続いた。
いつの間にか家には連絡が行っていて、ネハシュが泊まっていくようにとまで言ってくれたが、そこはなんとか固辞して家にたどり着いた時には一時を回っていただろうか。
リリは日付が変わる随分前に寝落ちしてしまっていたので挨拶もできなかった。そのことが心残りではあるが、
(まあ、今日もまた放課後に会えるか)
公園に行けばリリが居る。
まだ二回あっただけの、特に決め事をしたわけでもない再会にもかかわらず、礼慈は三度目の再会を一切疑ってはいなかった。
今日はまた裏山へ行って昨日はできなかった掃除の続きをやることになるだろう。だとしたら、とりあえずあの本が置いてある場所には手を出さないようにしなければなるまい。
(昨日みたいな乱暴はしないようにしないとな)
昨夜リリのパンツは洗ってみたが、どうにもゴワゴワした感じは取り切れていない。もうあれは処分するしかないとして、秘密基地に落ちていない理由を考えておくべきかどうか。
その答えはでないままに正門に着いていた。
守結学園は巨大な正門を通して全学の生徒・教師が登校し、それから各学校の敷地を区切る校門へと分かれていく。
様々な人魔、年齢を取り揃えた登校風景は見慣れてなお壮観だ。
それぞれの特徴は登校風景にも表れる。巨大な門であるがゆえにわざわざ真ん中を通ろうとするのはプライドの高い者か貴族かといった具合で、人間は隅から埋めていくように門を通過していくのが主流だ。
礼慈も普段通り門の隅を通ろうとして、ど真ん中に見知った少女を認めた。
(リリ……?)
流動する人々の流れの中で、リリは一人動きを止めて登校してくる生徒たちに正対していた。
ただでさえ目立つ容姿をしているのに生徒たちを観察するように立って往来の動きをせき止めているので余計に目立つ。
何をやっているのかと思っていたら、後ろから人にぶつかられた。
「あ、悪い」
「いや、止まってた俺が悪いから」
リリの行動を気にしている間に礼慈も足が止まっていたらしい。
「……」
見たところ、正門の真ん中を通ろうとする者たちの中には俯いて歩いているような者は居ない。皆堂々としたものだ。故にリリの存在を早くに認めて避けてくれている。
時折高等部や大学部らしい生徒が注意するためにか足を止めて声をかけているが、数言言葉を交わすと仕方ない、といった表情で手を振って離れていく。そうしてまた待ちの姿勢になるリリ。
そんな状況が礼慈の目の前でもう五分以上は続いていた。
「……礼慈、どうした?」
「――っ」
道の端に避けていたのにいきなり声をかけられて驚く。声の方を向いてみると、英と鏡花が居た。
「いや、な」
怪訝な顔をしている二人に見せるように礼慈はリリを指で示した。
「さっきからあんな所で立ち止まってるんだ。何やってるのかと思ってな」
二人は顔を見合わせて、鏡花が半歩引いた。
英は受ける形でコホン、と咳払いをして、
「お前が来るのを待ってるんだろ?」
「――は? 何でまた」
「いや、そりゃ俺にはわかんねえけど、同じ年代の友達を待ってるなら小等部の校門に居た方が人が少なくて見落としもないだろ? なら待ってんのは同年代じゃねえ。ってなると、俺には礼慈くらいしかあの子が待ってる相手の予想なんてつかない」
「ここですとリリさん、背が小さめですので十分な視界を確保できませんし、おそらくそのせいで鳴滝君の姿を見つけられないのではないかと思います」
「いつまでもそんな隅っこにいるからだぞ?」
英の非難の混ざった指摘に、人が正門を隅に寄って入ろうとするのは通例というものだろうと言い訳を思う。そして通例といえば、リリは非常に格の高い家の者だ。門は中央を通るものと当たり前に考えているのかもしれない。
(いや、リリはそういうタイプじゃないか……?)
ともあれ、立ち止まっているということは何かを待っているのだろうし、今のリリの状況で他所の学校に友人を作っているとは考え難い。
また、英の言う通り、小等部の友達との待ち合わせにここは不向きだ。
ということは、
(……本当に俺を待ってるのか?)
だとしたら、昨日に続いて今日もまたリリを待たせてしまっていることになる。
待ち合わせの約束をしたわけではない。だというのに罪悪感がのしかかってきた。
「……ちょっと行ってくる」
「おー行ってらー」
「行ってらっしゃいませ」
友人たちに送り出され、茶目っ気というやつだろうか、リリの背後に回り込んだ礼慈は彼女の華奢な肩を叩いた。
「へぁ?!」
振り向いたリリは一瞬の驚きの後、華やい
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