無垢な蕾


 羞恥に染まったリリの言葉に礼慈はなんと返したら良いのか迷った。
 その間にリリは泣き出しそうになりながら礼慈に謝ってくる。

「ごめんなさい。わたし……おしっこはもう出ないと思ったのに……レイジお兄さまにかかってませんか?」
「……あー、違う」

 勘違いしたままというのもかわいそうだ。礼慈はリリに待つよう促し、鼻声で「はい」と頷くリリに、勝手に本棚に戻っていった本を睨みつけながら言う。

「それはたぶんあの本のせいで出てきたもので、もっと言うとそのおもらしはリリが思ってるおもらしとは別のものだ」
「そう、なんですか?」
「ヌルヌルするって言ったな」
「はい」
「おしっこはもっとサラサラしてないか?」
「えっと、わたし、さいごにおもらししてから、その、何年もたっているので……さわったことはないですし」
(それもそうか……)

 見たところリリも中学年以上だ。おもらしとはしばらく無縁の生活を送っていたに違いない。
 あまり迂遠な言い回しをしても不安が長引くだけだろう。

「リリの股がぬるぬるするのはな。本の中の狐が垂らしていたものと同じものなんだ」
「本の中のヒトと同じ……?」
「そう。だからおしっこじゃない。そこは心配しなくてもいい」
「本当ですか?」

 潤んだ常磐の瞳が妖しく光って問いかけてくる。
 その輝きに背筋がゾクリとするものを感じながら、礼慈は居心地悪そうにもぞもぞしているリリに言う。

「いつまでもぬるぬるしているのは気持ち悪いだろう。パンツ、脱いだほうがいいかもな」

 口に出してそう言った瞬間。女の子に自分は何を言ってるんだと内心で舌打ちする。
 が、リリは余程気持ち悪かったのか、薄ら寒いほど素直にスカートの中に手を入れてパンツをずり下ろした。

 手を突っ込んだことでスカートがめくれ、青と白のストライプのパンツが白いオーバーニーソックスの上に下りてくる。
 ふわりと、焼き菓子に蜜をかけたような甘い匂いが漂った。

 礼慈は思わず深く息を吸った。
 ずり下ろされたことで裏返っているパンツは股下部分が広範囲で濡れている。それ以外にもクロッチの辺りに黄色の染みがあった。
 相当我慢させてしまったのだろう。

「あの、あんまり見ないでください……」
「とりあえずパンツを脱がせるから少し我慢だ」
「はい……でも、少し……その……きたないです」

 思い切りよく脱いだが、恥ずかしいものは恥ずかしいのか、リリが顔をパンツから背けながら言う。
 礼慈は「そんなことない」と脚から抜きさったパンツに触れた。

「あ、あの……」
「まあ見ているんだ」

 人差し指でクロッチの辺りを押し揉んでから離すと、指先にパンツに染み込んでいた液体が付いて粘液の糸が指先との間に繋がった。

「……?」

 それが何なのか分かっていないらしいリリに、今度は人差し指と親指の間に糸を引いて見せてやる。

「ねばねば……わたし、はじめて出ました。これが……あの本の中のヒトが出していたもの?」
「そうだ」

 頷き返しながら、礼慈は指に架かる橋を眺める。
 輝く銀糸は蠱惑的に魔力灯の光を照り返して礼慈の目を愉しませて、だから次のリリの言葉に対してその意味を考えるのではなく、答えだけを素直に思案することになった。

「でもわたし、おまた、いじってません……それに、それは……何ですか?」

 なんと伝えたものだろうか。こちらの世界では正しい名称があったはずだが思い出せないし、向こうではどうなっているのか分からない。ここはむしろ俗な表現の方が意味合いを伝えやすいとぼんやりした頭は判断し、そのまま口は回答を吐いた。

「それはな、愛液という」
「アイエキ?」
「愛情の愛に水とかを意味する液体の液と書いてな……ああ、上手く伝えられないが」

 数瞬悩み、結局直截な表現をすることにした。

「エロい気分になった時に、出てくるものだ」
「エロい……ですか……? わたし、おまたからおしっこじゃないのってはじめて出ました」
「ああ、愛液が出てきてるのはそっちじゃないんだ」
「え?」
「おしっこの穴の、もっとお尻側。お尻の穴との間にもう一つ穴があるだろ。愛液はそこから出てくる」
「あ、あのお姉さんもそうだったかもしれないです」

 リリは最後はモザイクがなくなった状態のものを見ていたようだった。はっきりと画が浮かんでいるのだろう。

「わたし、やっぱりこれまでこちらの穴から何か出たこと、ないです」

 ということは初潮もまだということになる。そんな子にエロ本を見せたことになんとも言えない笑いが浮かんできた。

「でも、お母さまがここは大切なところだって教えてくれました」
「そうだな。大事な所だ」
「でも、どう大事にすればいいのかわからないです」
「男にはそれがないから
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