ティッシュを処分しに行ったリリが呼びに戻って来て、赦されるような形で礼慈は秘密基地に入り直す。
全てが文字通り水に流れた、というわけでもないが気まずさはマシになった。それでも何ともいえない雰囲気を引きずったまま、どちらともなく掃除を再開した。
礼慈は時間が経って水気も十分取れた机に本を積み上げながら空の本棚を一気に掃除する旨を伝え、リリに手伝ってくれるように頼んだ。
快く引き受けてくれたリリとぽつぽつと話をしつつ機会を伺った礼慈は、本棚をきれいにし終わった仕上げにハンカチとテーブルクロスを濯いで椅子に掛けたのをきっかけとしてリリに頭を下げた。
「すまなかった。覗くようなことになるとは思わなかった」
リリが胸元でわたわたと手を振る。
「そ、そんな! わたしがあの、がまんができなかったり、ティッシュをもってきていなかったのがわるいんですから」
「だけど」
「それに、わたしはレイジお兄さまにお礼を言わなくちゃいけないんです。本当ならもっと早く言わなくちゃいけなかったのに、わたし、言いそびれてしまってて……」
「そんな感謝されることなんてあったか?」
覗き魔だと糾弾される謂れこそあれど、感謝される心当たりがない。
「だって、わたしにドアがたおれてくるところから守ってくれました」
「あれは」
そもそも扉を壊したのは礼慈だ。感謝される理由にはならないと思うが、
「レイジお兄さまはわたしを助けてくれた……それが、すごくうれしいんです」
彼女は頬を赤く染めて続けた。
「で、ですけど……はずかしかった、です……今度は、おしっこ、すませてから来ます」
「あー、まあ、扉も壊れたことだしな」
ここまで言わせて謝り続けるのも失礼だろう。礼慈は恥ずかしいことを思い出させたのを詫びる気持ちでリリの頭を撫でた。
リリは撫でやすいように頭をこちらに傾けてきて、そのまま数秒、午後の日差しが結晶化したかのような髪を撫で続けた礼慈ははっとして手を引いた。
(さては常習性があるな……?)
二度目にしてあつらえたかのように手に馴染む心地良さだ。
唐突な終わりに疑問を抱いたのか、リリが顔を上げてくるが、その疑問が言葉になる前に礼慈は本棚を見て言った。
「大物が綺麗になるとやっぱり見違えるな」
「そう、ですね……。はい、本当に、きれいになりました」
足元にも埃が積もっているが、これは箒を持ってきてトイレにまとめて掃き出せばいいだろう。
しっかり密閉されていたのが良かったのか、虫や砂が紛れ込んでいないのが幸いだ。その気になれば残りの部屋も思ったより苦労せずにきれいにできるかもしれない。
(まあ、そんなに頻繁に来ることもないだろうが……)
「次はどうしますか?」
やる気まんまんなリリに礼慈は苦笑する。
「そうだな。……本棚に本を収めるのは湿気が完全に取れるまではやめておきたいな。床はちょっと道具が足らない。それに陽も暮れてきたし、俺としては今日は引き上げるタイミングかなと思っているんだが」
言うと、リリが残念そうに耳と羽と尻尾を垂れた。
気晴らし目的で連れて来ておいてトイレの一件があったこともある。多少なりとも罪悪感を得ている礼慈としては、彼女にそんな反応をされてしまうとなんとかしてやりたいと思ってしまう。
「……だが、実はさっき本棚から昔やってたゲームの特集が載っている雑誌を見つけたんだ。もう廃刊してるから見ることはできないと思ってたやつで、インタビュー記事とか載ってるらしくてな、ちょっと中身が気になる。悪いけど読む間――十五分くらいでいいんだが、待っててもらってもいいか?」
「はい……あの、ありがとうございます」
「こっちこそありがとう」
リリははにかんだ笑みで礼慈もまだよく中を見ていない最後の扉を指さした。
「あそこ、まだよく見ていないので見てきてもいいですか?」
「ああいいよ。とは言っても俺もこうまで発展しているとは思わなくて、そこに何があるのかは分からないけど。ああ、物がボロくなってるだろうから、気をつけて」
言った直後に先程のことを思い出して地雷を踏んだかと身構えたが、リリは知らない部屋を探索することに興味を惹かれているためか、気にした様子もなく部屋の中に入っていった。
自分だけがあのことを過大に気にしているようで居心地が悪くなる。
ともすればリリの小振りなお尻の丸みを思い出してしまいそうで、礼慈はそれを振り払うために本当に気になっていた雑誌を掴んで椅子に腰掛けた。
●
インタビュー記事を読み終わった礼慈はリリが入っていった部屋の方をちらっと見た。
先程から物音が聞こえなくなっている。
いくら拡張されているとはいっても元は洞窟を掘り進めただけのものだ。広さ
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