ヒミツ基地


 学園の裏山は幼い頃の印象とは違って、山とはいっても少し傾斜がある丘程度のものだった。
 ただ、リリムが創りあげたこの土地の質が良いのか、近くに巨大な学園施設があるとは思えないほどに木々が生い茂っている。

 まるで別世界に迷い込んだようだとリリが言い、礼慈もその言葉にまったくだと頷く。
 秘密基地に着くためには運動部がロードワークで使っている山道から逸れていかなければならないことも、別世界へ足を踏み入れる感を増していた。

 秘密の道を通って秘密基地へ。そういう手続きにも皆、魅力を感じていたのだろう。後ろから着いてくる足音が小走りになっていることに気付いて速度を緩めながら礼慈は思う。

「もうすぐ着く」
「はい」

 リリの息が少し上がっている。礼慈にとってはそう大変な道のりではないが、小等部の子にしてみればこのハイキングはちょっとした冒険感があるだろう。
 目隠しのように生えている木をかき分けると、秘密基地の脇を流れていた小川が見えた。後はこれを遡れば秘密基地だ。

「少し休んだ方がいいか?」
「いいえ、へっちゃらです!」

 声に力がある。もう少しがんばれそうだ。
 礼慈は川を辿り、そして――

「到着だ」
「わぁ……っ」

 秘密基地に辿り着いた。

 それは木々に埋もれる中にぽっかりと開いた、大人でも立ったまま悠々と中に入ることができる洞窟だった。
 リリが洞窟を見て目を輝かせる。

「すごいです……!」
「先輩たちも凄い所を見つけたもんだよな。奥に行くと幅ももう少し広くなってるんだ。あの時はよく分からなかったけど、光苔が自生してるんだろう。明かりがなくても中、けっこう明るいんだ」
「ヒカリゴケ、ですか?」
「ほとんど名前の通り、暗い中で光る苔だな。ちょうどリリの目のような綺麗な緑色なんだ」
「ぁ……ありがとうございます」
「あーいや……」

 照れられてしまうとこちらとしてはどう返したものか悩ましい。
 今思い返すと、リリの瞳を最初に見た時に感じた幻想的なイメージは、昔見たここの光景と頭の中で響き合ったからなのだろうと思えた。

「光るとはいっても電球のような強い光ではなかったけどな」

 ぼんやりと明るくはあっても全体としては洞窟の中は薄暗いので、実際に遊ぶのは外。中には濡れては困る漫画や遊び道具を保管していたはずだ。

(外に誰も居ないか……。今日は誰も来ていないか、もう帰ったのか)

 どちらだろうかと考えていると、リリが洞窟の中へと駆け出した。

「わたし、中を見てきます!」
「走ると転ぶぞ」

 素直に足取りを早歩きに移行したリリを追って礼慈も洞窟の中に入る。念のためにと携帯端末のライトを点けて中に入ると、礼慈の記憶にない物が待ち構えていた。

「これは……?」

 そこにあったのは洞窟の幅いっぱいまである木製の板だった。
 板の中央には切り込みと蝶番の金具が見えていて、どうやら扉になっているようだ。

「ここがヒミツ基地のげんかんなんですね」
「……いや」

 礼慈の記憶にはない設備だ。歴代の使用者の誰かが取り付けたのだろうが、ここまでかっちりと洞窟を埋める大きさの木の板を運び洞窟の大きさに加工したとなれば、結構な大仕事だ。
 しかも、木板は壁面に掘られた溝にはめ込まれてしっかり固定されている。かなり手が込んでいた。

 小等部の人間の製作物ではないだろう。おそらくは、今の礼慈のように成長してからここに訪れる機会のあった誰かがこしらえたもの、だろうか。
 ただ、木板は表面に塗布されたニスも剥がれかけて傷み始めていた。

(作ったはいいもののその後メンテナンスはしてないってところか……開くのか? これ)

 目を輝かせているリリの前に立って手を当てる。
 壊れたりしないか具合を確かめながらゆっくり力を込めてみると、少し抵抗を感じた後、錆びた蝶番と傷んだ木が擦れるギィ、という音と共に扉は開いた。
 そうして現れた扉の向こうの光景に礼慈は絶句した。

 扉を抜けた洞窟の奥は、壁も床も天井も、全て平面に加工されていたのだ。
 それだけではない。
 記憶の中では奥までひたすら一本道だったはずの洞窟の中は明らかに拡張されており、どうやって持ってきたものなのか、入り口から入ってすぐの区画以外に木製の扉によって三つの部屋が存在しているようだった。

「わあ、すごいです! まるでおとぎばなしです!」

 驚きに立ち止まる礼慈の横をリリが興味津々ですり抜けていく。
 先へと進んだリリは、壁を見てふと首を傾げ、それから何か合点がいったように手をかざした。すると壁面に埋め込まれていた魔力灯に明かりが灯る。

「わあっ!」
「マジか……」

 歓声をあげるリリについて行くと、そばを流れる小川から引き込んだのであろう、淡い光を放
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33