武彦の姿は滑稽なものだった。
扉を破るために慣れていない蹴りをしたのだろう。体勢が崩れている。
崩れた姿勢のまま呆然と彼が眺めているのは、扉に向かって脚を広げ、指を膣に挿れて果てている私だ。
……あぁ……。
羞恥と、それを上回って溢れ出る劣情に思考が融解する。頭のどこかで聞こえていた理性の声も消えてしまった。
この光景は完全に予想外だったのか、武彦は固まっている。
呼吸すら停まってしまって生物として完全に死に体だ。
致命的なその隙に、同じく死に体だったはずの私の体は、あれだけの快楽に溺れた直後にもかかわらず動いていた。
上半身だけ起き上がらせた体が羽の一打ちで跳ね上がり、淫蜜でぬるつく脚が武彦へとたどり着くための一歩を思いの外力強く踏んだ。
その勢いのまま。体当たりするようにその身を抱く。
彼が衝撃に呼吸を乱す音を聞き、私は無防備なまま晒されているその首筋に牙を立てた。
人間の脆い肌が牙を受け止め、すぐに限界に達する。
プツ、と心地よい音がして彼の内部に侵入すると同時に、牙が差し込まれた部分から熱い液体が吹き出してきた。
彼の血液――彼が生きていると雄弁に語る赤い命の証。
それが私の舌に乗る。
口内に広がる僅かな粘り気を含んだ彼の味は、輸血パックの味気ないものとは全く違う。
いや、それくらいのことは分かっていた。だが、この味は領地に居た頃に啜った他の何人の血よりも遥かに美味しかった。
人間の血液だからだろうか? いや違う。きっと私の生涯でこれ以上の血液と巡り合うことはないのだ。そう直感できる。濃厚で、味覚を根底から書き換えるような味。
やがて武彦の呼吸が整ってきたためか、牙の隙間から零れる血の量が減ってきた。
……まだ、足りない。もっと欲しい。
そう考えた直後、私は意識しないままに彼に作った傷口に強く吸い付いていた。
赤子が乳を吸うように一心不乱にヂュウヂュウと音を立てて武彦の血を吸い上げる。
「ぅ……っ」
ようやく整えられようとしていた呼吸がまた乱されて武彦の口からうめき声が漏れる。
彼が息苦しそうに呼吸をするたびに、熱い血が私の口へと吸い上げられて、彼の熱が私の中で息づいてニンニクからもたらされた淫気を焼き払っていく。
……ああ、ああ……!
血を飲んでいないのは一日程度。大した飢えではないはずなのに、全身に染み渡るような、涙がこぼれてしまうようなこの感覚はどうしたことだろう。
満足いくまで血を啜った私は、ゆっくりと口を離して、彼の体に傷が残らないようにと傷を舐めて私の魔力を分けてやった。
ちょん、と付いた傷口から出血がないことを確認していると、武彦が上ずった声で言葉を寄越してきた。
「ル、ルアナお嬢様……」
何かを訴えるような声。私に捕らえられている体が不規則に震えている。
みなまで言うな、分かっているとも。
体を解放して、代わりに肩を押さえつけると、さしたる抵抗もなく武彦は私に押し倒された。
「私、は……理解したのだ」
「なに、を?」
武彦の吐息を感じながら、私は頷いた。
彼に痴態を見られてしまうまでの私は、我が身に燻る淫気を掻き出すことによって追い出そうとしていた。
が、それは間違っていたのだ。
どれだけ淫水を掻き出そうとも、満足できない体はいつまでも燻り続けるだけだ。
この身を鎮めるには内から出すのではなく、内に受け入れて求めているものを満足させなければならなかったのだ。
つまりは、
「君の精が欲しい」
「……な?!」
身を硬くした首筋を舐めて顔を覗き込むと、武彦は赤い顔で絶句していた。
「血を抜かれたというのに血色がいいな。私に血を吸われて欲情したな?」
「いや、だって……。それよりもっ! 僕は先生だからそういうことはよくないんじゃ」
この学園でそのような意見が通るはずもないだろうに。慌ててしまってなんとも滑稽で……可愛らしいではないか。
それに、
「こちらは正直なのだがな」
彼の股座に触れると大きくなったそれが手に触れた。
久しぶりの吸血。それも人間の男になど初めてのことであったが、私はうまくやれたらしい。
「なあ、武彦。毒を盛られてしまってな、身体が火照ってしかたがないのだ。お前のこれでなければ鎮まらん」
ゆっくりとズボンのチャックを外していると、武彦が心ここにあらずといった体で呟いた。
「ラリサちゃんが言っていたのってまさか……」
突然出てきたラリサの名前に、手が止まる。
何故動きを止めてしまったのか。その理由を考えようとするが、それは明確な形になる前に思考から溶け落ちていった。
「そう、あの子にニンニクを盛られてしまったのだ」
答えながら開けきっ
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