高嶺の花

 その日一日の授業が終わるまで、私は昼のミレイの勧めに従って武彦に対する感情について考え直していた。

 武彦をそばに置いておきたいというのは確かな思いだ。
 だがそう思わせる元の感情はミレイに語った通り、愛や恋などといったものとは別種のもの。ただ近くに居てさえくれればそれで良いものという結論は変わらなかった。

 だいたい、あのような頼りない人間。放っておいたらどこへ行ってしまうのか分かったものではない。それでは私が昔一敗を食らったそのままになってしまうし、その後行方を掴めなければ流石に目覚めが悪い。その上ラリサもいたく悲しむ。

 ……いや、頼りないとは言うが、それは総合的なものであって、決して彼がどうしようもない駄目人間であるというわけではない。むしろ、普段の生活態度から、彼は信用に足る人間であると私は判断している。

 まあ、だからこそ、ラリサを任せてもいいだろうと考えたのだが……。

「……だとすると武彦を所有して留め置く理由は一つ追加になるか」

 私自身の雪辱に加えて妹の幸せ。この両立こそ、私が彼を留める理由の全てだろう。

 私の理想としては、ラリサと武彦をつがわせた上で、特等席から私の治世を見せ、武彦に文句のない統治だと認めさせてやりたいのだ。
 だとすれば、あれほどラリサを煽ってしまったのは失敗だっただろうか……。

 授業中に考えた通り、ラリサと武彦はこのままつがうことができるだろうが、私のもとからは去ってしまうかもしれない。
 最近になって武彦が屋敷の仕事に手を出すようになったのは屋敷から出て行った先での仕事の算段をしている可能性もある。

 魔力の気配を感じはしないので決まった魔物の相手がいるということはないだろうが、この流れは不穏だ。
 だというのにラリサはそんな武彦の様子に気付いていないようだ。

 これまでの関係がこれからもずっと続くと思っているのかもしれない。

 あの男はお前が伸ばした救援の手を無下にしたというのに。
 もう少し、違和感を察する感性があってもいいだろう。
 と、そこでふと気付いた。

 ……ああ、私は武彦の件と地続きの問題としてラリサに対しても、もどかしいという感情を抱いているのか。

 早く幸せになればいいと思っているし、そのために告白をしてしまえばいいと思っている。

 ラリサは我が妹ながら、同胞を並べてもなお器量良しだ。武彦はあの子の愛嬌のある性格まで知っているのだから断ることもなかろう。
 普段あまり意識しないながらも、何故早く関係を深めようとしないのかと、内心忸怩たるものがあったのだ。

 ……まったく、傍目で見ている私からも片方のことを考えているともう片方のことが思い浮かぶほどに密接した関係だというのに、一体何をためらうことがあるのやら。

 考えれば考える程、二人の煮え切らない関係にやきもきする。あの二人は私の心に波風を立てる天才だな。

「ルアナ様。ずっと考え込んでいらっしゃるようですが、大丈夫ですかな?」

 いつの間にかラリサの心配をし始めていた私に声をかけてきたミレイに私は言い返した。

「よく考えるようにと言ったのは君だろう」
「いや、よもやここまで真剣に考えていただけるとは露とも思わず……そういう所が好ましいですよ、ルアナ様」
「ああ、うん……そうか」
「おやおや? あまり嬉しそうではないご様子」
「私の中の“胡散臭い”という言葉はお前と結び付けられているからな」
「これはしたり! 私の生き様がルアナ様の辞書を書き換えてしまいましたか!」

 やかましい。
 とはいえ、ミレイの忠告を受け入れて考えた結果、ラリサと武彦に抱いている感情の輪郭をはっきりとさせることができた。その点ではミレイの言葉は正鵠を射ていたと言えなくもない。

「それで、ルアナ様の中にある想いは何か別の形を見せましたかな?」
「やはり私の武彦への感情は愛や恋とは別の所にあるということが確かめられただけだ」

 私は武彦に私の勝ちを認めさせたいということ、そしてラリサと武彦にはつがってもらい、二人揃って私の治世を見ていてもらいたいという思いがあることを話した。
 そして彼を私が所有していることについても、

「あの場は武彦が正しいと判断した。だから彼の勝ちを認めたが、最後に勝つのは私でなければならない。だから、あの男に認められるまで、私は彼と戦い続けている。これは武彦が認識すらしていない勝負の盤面からあの男を降ろさないための、ラリサが持てば、父様似のあの子は手放してしまうであろう故に私が持つしかない私のための彼への首輪だ。
 結論は変わらない。私は私の負けず嫌いのために彼を所有している」

 君が妄想していた通りではなくて残念だったな。と言ってやると、ミレイはあてが外れたように眉をハの
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