告白  (次の話以降、エピローグ以外は全てエロありです)

 告白をすると決意を固めた朝。
 登校した英は机に教科書を詰め込みながら、全神経を集中させて鏡花の動向を他人に悟られないようにさり気なく探っていた。
 鏡花はいつも通りに家に来て朝食の用意と昼食の弁当の用意、そして洗濯をしてくれていたが、家に居る間挨拶以外の会話らしい会話をしていなかった。

   ●

 今教室で友人たちと他愛のない会話をしている鏡花は普段と変わらないように思える。
 しかし、今朝の鏡花は明確な失敗こそしていないものの、どことなくいつもよりも動きがぎこちないように見えた。昨日の帰り道での気まずさが後を引いて鏡花を見る英の目が歪んでいるのか、それとも見たまま感じたままの通りに鏡花の調子が悪いのか。

(つっても、下駄箱で訊いた時に体調は問題ないって言われてるしな)

 返す刀で英こそ大丈夫かと訊き返され、せっかくの会話がとぎれてしまってもいる。
 早朝に組み上げた告白のプランを何度も頭の中で繰り返して確認していたせいで普段と様子が違っていたのだろう。

 芹も、珍しく英たちが登校するまで家に居た真も、不審なものを見る目で英を見ていたあたり相当だ。

(今日告白するってのに、こんな微妙な空気で大丈夫か?)

 取り繕う余裕が完全に消え失せている自分にちょっと自信を無くす。

 いつも通りに他愛のない会話をして、そのついでに鏡花を昼休みの屋上に誘う。
 そんな第一ステップもまだ達成できていない状態では告白どころではない。

 昼休み、屋上で。

 英はそこを告白のタイミングと見定めていた。

 他に候補はあったのだが、確実に二人きりになれる状況を作れるのはそこだけだった。
 その時間に屋上に来てもらうために約束を取り付けるのが告白計画の起点なのだが、結局言い出せないまま学園に着いてしまって自己嫌悪入りかけているのが今の英だ
 とはいえ、いつまでも悩んでいても仕方がない。今日はあらゆる躊躇いを振り捨てて前進すべき日だと決めていた。

 決意も新たに席を立つ。

「鏡花――」

 振り向きざまに声をかけようとすると、いつの間にか友達の輪から離れた鏡花が目の前に居た。

「あ、は、はい。どうなさいましたか?」

 浮き足立った声で応じる鏡花に、英も心臓の鼓動を早めながら応じる。

「あ、あーいや、先に鏡花からで」

 鏡花は控えめに頷くと、申し訳なさそうに、

「あの、ですね。家に水筒を忘れてきてしまいました」
「そういえば……」

 そういえば、朝渡されたのは弁当のみで、飲み物はなかったと今更思う英を前に、鏡花は財布を取り出して言う。

「今でしたらまだ本鈴に間に合いますので、お飲み物を買って来ようかと考えております。お茶でよろしかったでしょうか?」
「あ、うん――いや、悪いよ。後で自分で行くから」
「いえ、これは私の失態。挽回の機会をください」

 鏡花の言葉にはどこか切羽詰まった響きがあり、英としてもなんとも断りづらかった。

「じゃあ、お願いしていい?」
「はい」

 財布を握りしめて応じた鏡花は、それから、と続ける。

「英君の用件をお伺いします」
「あ、ああ」

 英はつっかえる喉を通すように咳払いして、滑りの悪い口を動かした。

「もしよかったらなんだけど、お昼、屋上で一緒に食べないかな、っと思ってさ」

 煮え切らない言葉選びだったが、言いたいことは言えた。

「屋上は魔界植物試験場になっていて、念のために鍵がかけてありませんでしたか?」

 その通りだ。魔改造部と名高い魔界造園部が試験場にしている高等部校舎屋上庭園は生態系を守るために一応は鍵がかけられており、部員か教員でもなければおいそれと入ることはできない仕様になっている。
 だからこそ、英はそこを選んだ。

「この前生徒会の手伝いをしたお礼に鍵を預かってるんだよ。部活での失敗を見つめ返すためにも静かな場所で風にでも当たりながら飯食おうかなって思ってさ」
「そのような大事なお時間に私が居てもよろしいのですか?」
「うん、むしろ居てくれると助かるっていうか……もし迷惑じゃなければ、でいいんだけど」
「それは素敵です。お邪魔でなければ是非ご一緒させていただきます」

 今日一番で嬉しそうな顔をすると、鏡花は教室を出て行った。

(……水筒か。忘れる鏡花も珍しいけど、全然気付かなかった俺もどうなんだ)

 彼女が去った先をじっと眺めながらそんなことを思っていると、礼慈が肩越しに声をかけてきた。

「当生徒会は屋上の鍵の貸し出しにつきまして一切お話を伺ってはおりませんが?」

 その通りだ。
 朝、告白の流れを組み上げた時にメールで鍵のことを確認しようともしたのだが、

(告白するから鍵貸せ。だとなにも屋上じゃなくてもいいじゃんとか言われそうだし……)

 
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