ガヤガヤと物音がして、鍵をかけた教室の扉が開けられる。
体育の授業が終わって教室に戻った英たち男子生徒は、着替えの前に飲物を飲んだり汗を拭いたりして汗がひくのを待っていた。
「暑くてかなわん」
「もう夏だな」
汗をタオルで拭いながら、英はまだ運動が足りないと思っていた。
(もっと疲れて夢も見ないくらい深く眠っちまわないと)
昨夜処理したにもかかわらず、今朝の目覚めもまた淫夢によるものだったのだ。
(抜きが足らなかったか?)
かなりアホなことを考えているのは分かっているが、本人としては切実だ。
人魔共学の学校で生活しているせいでいつの間にか魔力にあてられて精力が増加しているのかもしれない。
(これまでは一回で大丈夫だったんだけどな。夢だってよく見るようになってきてるし)
鏡花が相手の淫夢は精通の時から何回も見ていたが、ここまで頻繁には見ていなかった。
(こんなことじゃあ、恐ろしくて授業中に居眠りもできやしない)
授業中にやらかしてしまったとなると、流石に翌日から学校に来る自信はない。
(昨日の朝みたいに名前まで呼んだとなると言い訳もできないしな)
居眠りする気はないが、もしもということもある。保健室の海和尚に相談しに行った方がいいだろうかとも考えるが、直後に内心で首を振る。
あそこは恋愛相談をすると嫁を紹介される竜宮城の出張所の顔があるという噂があった。淫夢の相談をしに行って無事でいられるとは思えない。
鏡花以外の相手が考えられない以上、ここは学園の相談施設を頼るよりも友情を頼るべきではないだろうか。
(つっても適当な奴に相談したらいらないおせっかい焼かれそうだな)
事は個人的な納得の問題なため、外からあれこれと口を挟まれても解決にはならないだろう。その辺り、口が固く理解もある礼慈にでも相談してみようかと考えていると、足もとに冷気が浴びせられた。
「冷たッ?!」
驚いて飛びのくと、冷却スプレーを片手にクラスメイトが笑った。
「どうしたよスグ。眉間に皺なんて寄せちゃってさ」
邪気の無い笑顔に手刀を返し、英は咄嗟に嘘を並べた。
「昨日部活でやらかしたからな、引きずってるんだよ」
「そいつはかわいそうに。ほらもっと冷やしてやるよ」
「あ、くそ、顔に向けんな」
ひとしきりスプレーを相手取って遊んでいると、着替え終わった他の男子が集まってきた。
参戦してくるのかと思ったら、目的は違ったようだ。彼らは声をひそめ、
「なあ、ピリの奴が剣道部の一年と付き合い始めたっていう話はマジか?」
「あー、マジマジ。昨日うちにマネージャー見習いに来てたぞ」
正確には鏡花に興味があるなら来てみるかと声をかけてもらったのだが、けっこう好評だったようで誘った側としては満足だ。
一連の話を聞き、冷却スプレーを持った男子、烏頭(うとう)は真面目くさった顔で「これは由々しき事態である」とのたまった。
「何が?」
「この、夏も始まろうかという時期になって付き合い始める奴らが増えてきているとは思わないか?! なんだ? 恋の季節なのか?!」
「時期的にそんなもんだろ。もう高等部二年だしな」
別の男子がそう応じると、スプレーから冷気を吐き出させながら烏頭は言う。
「ならば! そろそろ俺もこ、告白とか、いってみるか?!」
「グラキエスの子だっけか。片思い期間、けっこう長いよな?」
英は指折り数えた。
「中等部の時に女王の命令で学園の視察に派遣されて来たところに一目惚れだろ? もう四年目か」
「高等部卒業すると進路別れるし、決着つけるなら来年中、だよな?」
「さらっと逃げようとすんな。二年の二学期に入ると将来の方向性もきっちり決まってくるし、行き先が分かってるってわけじゃないなら一学期の内に決めるしかないんじゃないか?」
ヘタレた烏頭に別の男子が喝を入れる。
烏頭は「よし、分かった」と頷き、英を指差した。
「宣言する! 俺は相島が大取に告白したらあの子に告白するぞ!」
「はあ?!」
訳の分からない宣言に愕然とする英に対して、周りはそれはいいと囃し始めた。
「ちょっと待て、なんで俺が鏡花に告白することになるんだよ?」
「え、だってお前大取のこと好きじゃん?」
当たり前のように言うクラスメイトに英は手を上げて制止を促す。
「それとこれとは話が違うだろう」
「頼むよ相島ぁ。俺の希望になってくれ」
すがりついてくる烏頭を振りほどいて冷却スプレーを奪う。
「頭を冷やせ」
「あの子みたいなこと言うなぁぁぁ……」
スプレーを吹きかけられて悶える烏頭を、嫌な顔をしながら別のクラスメイトが引き取る。
「だけどお前、傍から見てるとほんともどかしいぞ?」
「いや、俺が鏡花を好き
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