ラミア属...?

とある高校の昼休み。

「ラミア属の魔物娘に巻きつかれたい...」

「!?...ゲホッ、ゲホッ....!」

隣にいた男が唐突に発した言葉により、弁当を食べていた男はむせ、咳き込んだ。

「うお!?大丈夫か?水飲めよほら...」

「お、おう...ありがとよ...」

手渡されたペットボトルを口にして落ち着きを取り戻した男は、発言の真意を確かめるべく友人に語りかけた。

「なあマサト、さっき言ってたのはいったい...」

「ん?何が?」

「だからあれだよ、ラミア属の魔物娘がどうたらこうたらってやつ」

「なっ!?コウタ...何でお前が俺の心に秘めた思いを...」

「お前が自分で呟いてたからだ」

「え?...マジか?」

「その様子じゃ、他でも口を滑らせてそうだな...気をつけろよ?そんなことうっかり言っちまって誰かに聞かれちまった日にゃ...」

コウタはそこで言葉を切るとマサトの背後、つまり現在地である二人のいる教室の隅から見渡せる教室全体に視線を移した。
男子生徒と女子生徒が共同で生活しているありふれた教室の風景。
一見すると普通の高校生の日常風景に見えるが、その場にいるのが人間だけではないという事実が、この光景が普通ではないことを表していた。
魔物娘と呼ばれる今では当たり前のように受け入れられているこの新たな隣人達は、十年程前にこの世界に姿を現した。

「そして...この十年で人類と彼女達は多くの障害を乗り越え、ようやくお互いが良きパートナーとして生活していけるまでになりました...めでたしめでたし」

「...でもよ、今でも魔物娘に反対意見を持ってる人もいるにはいるから...めでたしにゃ少し早いんじゃないか?」

「しっかし、なんで反対なんかすんだろう?」

「うーん...あれだろ、エッチなことに抵抗感があるとか」

「はっ!片腹痛い!」

「声が大きいぞ、童貞」

「童貞ですって!?」

教室の扉を勢いよく開けたユニコーンに見られぬように、机に顔を伏せながら二人は声のボリュームを下げつつ会話を続けた。

「コウタこの野郎、最近三学年で童貞狩りと名高いユニコーン先輩が下級生のフロア彷徨ってんの知ってんだろ!?あの人はあの学校一のワルのヘルハウンド先輩から一目置かれてるんだぞ!?何考えてんだよこのお馬鹿!つーかお前も童貞だろうが!」

「やかましい、まさかこんなピンポイントに来るなんて誰が想像できんだよ...しかもそれだけじゃねぇ、あの人は自分のクラスで委員長として日々真面目に頑張ってきた結果、自分のクラスはおろか他のクラスの童貞まで取り逃がしちまったかわいそうな人なんだよ」

「そう、かわいそうなユニコーンなんです...ですから、そんな哀れなユニコーンに童貞をお恵みくださいな♪」

件のユニコーンが二人が顔を伏せている机にいつの間にか両手で頬杖をついていた。

「...ユニコーン先輩」

「はい?」

「あそこでせっせとノートを書いてる奴、名前をタツヤっていうんですけど...」

「はあ...それで、そのタツヤ様が如何なさいました?」

「あいつこの前、ユニコーン先輩の事が好きだって言ってました」

「まあ、嬉しいですわ♪して...」

「はい...童貞です」

後にその時の光景をコウタはこう語った。

『タツヤの奴が担ぎ上げられ、先輩に拉致される...その全てが俺が瞬きをした一瞬で行われ、そして終了していた...因みにタツヤが先輩に好意を持ってたってのは本当だった、何でもいつも真面目で頑張り屋さんで優しい先輩のことがいつの間にか気になり、いつしか姿を見れば目で追うぐらい好きになってたらしい...二人は結ばれたからまあ良しとするが、俺はてっきりマサトの奴がタツヤを売ったもんだと思った...正直なところな...』





ユニコーン先輩により倒れたりずれたりした教室の机を直しているマサトに一人の女子生徒が近付いてきた。
しかし、二本の足ではなく鰻の尾のような下半身で、である。

「マサトさん、大丈夫ですかぁ?」

「ん?ああ、トメちゃん...大丈夫、俺はなんともないよ」

マサトがトメちゃんと呼んだこの女性、ぬめりのある彼女は鰻女郎という名の種族の魔物娘であった。
マサトとは席が隣という接点があり、他の女子生徒よりもマサトと接する回数が多いということも相まって女子生徒のコウタポジション、マサトにとって女子の親友という間柄だった。

「びっくりしちゃいましたよねぇ~...タツヤさん、大丈夫ですかねぇ?」

「どうだろう...さっきコウタが様子を見に行くって出ていっちまったけど」

「コウタさんなら安心ですねぇ」

「ああ、俺より頼もしいし良い奴だしな」

「マサトさんだって負けてませんよぉ?」

「本当に?ははは
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