「うわー!」
銀山の坑道内に男性の叫び声が響き渡った。
転がる石を蹴飛ばし、青年は一目散に出口へと駆けていく。
青年の後方に広がる暗闇に、赤と黄色の宝石が浮かんでいた。
目を凝らせばそれは瞳であるのが分かるだろう。
大きく一つの赤い瞳は楽しげに、されど奥底には小さな寂しさを写していた。
瞳から逃げた青年は全速力で駆ける。
全体的に細い体だが坑夫(こうふ)らしく筋肉質であった。
赤茶けた髪に褐色の肌は南方生まれのためだ。
途中多くの坑夫と、その妻の魔物がいたが気にも止めず走っていく。
「ダエ! まだ仕事は終わってねえぞ!」
唐突に腕を捕まれ、ダエの逃走はそこまでだった。
「また出たんだ! リグ、頼むから見逃してくれ!」
腕を掴む青年にダエは体を震わせながら懇願した。
だがリグと呼ばれた青年は金髪を揺らし首を降る。
「残念ね、もう帰っちゃうの?」
愛らしい声が真後ろから上がり、それと共にダエの心拍数もいっきに跳ね上がる。
錆び付いたよう振り返えると、そこには少女がいた。
黒髪に紛れるような多数の触手、その先端にある黄色い瞳とゲイザー特有の真っ赤な一つ目がダエを捉えていた。
「ユ……ユメリアル……」
予期せぬ接近にダエの思考が出鱈目に回る。
真紅の一つ目に手足が震え。
八重歯のような歯から発する吐息に汗が吹き出る。
冷たく思わせる白い肌の匂いに、呼吸が荒くなっていく。
限界に達する前に体を動かした。
捕まれた腕を力任せに振りほどき、今度こそ炭坑から出ていくのであった。
ゲイザーの彼女、ユメリアルとダエの出逢いは抗内であった。
その日は早く目が覚め、やることがなかったダエは準備をしに採掘現場まで歩いていた。
シンと静まり返った坑道の空気を新鮮に感じながら最奥にたどり着くと、見慣れないものがあった。
最初は動物の死骸かと思ったが、近づいていくと違うと分かる。
黒い固まりで何か分からず、放置しようかとおもったが仕事場にあるため出来ない。
仕方なく警戒しながら様子をうかがっていた。
得たいの知れない黒くうごめくモノに心音が大きくなる。
「う……」
黒い固まりがうめき声をあげ転がる。
真っ白な肌をさらし、強く閉じる一つ目が露になった。
視界が震えるほどに、大きく心臓が羽上がる。
彼女は書物で見た姿に酷似しているため、何とかしようと深呼吸を繰り返し落ち着く。
「お、おい、大丈夫か?」
倒れて苦しむ姿に大丈夫かと訪ねるのもおかしかったが、聞かずにはいられなかった。
「……」
うっすらと力無く瞼をあけ、弱々しく体を動かそうとするがうまくいかないようだった。
そのときどこからか、子犬の鳴き声らしき音が響く。
ダエは周囲を見回すが抗道に子犬がいるはずもなく、発生源らしき方向には彼女がいるだけである。
「く……」
体を震わしながら丸くなる彼女であった。
「腹……減ってるのか?」
ダエの予測はあっていたのだろう、ビクリと彼女は体を揺する。
「ちょっと失礼」
ダエは一言謝罪いれたあと、背中と膝裏に腕を通し強引に彼女を抱き上げる。
彼女の空腹が激しいのか、音を聞かれ気力もが萎えたのか、全身の力が抜けていた。
ずっしりとダエの腕に重くのし掛かるが、抗夫で鍛えた体で支え、振動少なく足早に目的地へと向かう。
坑道には休憩所があった。
ただし休憩所といってもかなり立派である。
ただ単に休むだけでなく、魔物の嫁さんから強引に、時には襲われるように仕向けられ、体力を余計に使うこともあるのだ。
木材で壁を作り、小部屋が多く配置されていた。
全ての部屋にベッドが設置され、柔らかく彼女の体を優しく受け止めてくれる、高品質なものである。
「さて、空腹なのはわかったが、何を食べるんだ?」
ダエはベッドの隣に椅子を置いて座る。
銀山があるのは親魔物領内にあり、魔物娘は良く見かける。
だが彼女は初めて見た。
ゲイザーというのは村にある図鑑で分かっていたが、チラ見した程度でダエは詳細を覚えていない。
「精よ」
うっすら瞳を開けてか細く答えるのは、体力が落ちているためであろう。
「そう、か……どうしよう……ヤルしかなのか?」
ダエは思わず頭を抱えた。
この男、実は童貞である、未経験である。
そのうえ周囲の夫婦が愛を囁きあっているのだ、やるときは相思相愛が良いなどというという考えを持っていた。
助けるためとはいえ愛していない者を抱く事に、ものすごく躊躇しているのだ。
「嫌」
彼女の返答にダエは困惑する。
「嫌って、このままだと正直危険だぞ」
「好きでもない人に抱かれたくないなわ」
彼女が宣言すると顔を横に背け、瞳を閉じる。
困り果てたダエはウンウン唸りながら考えこんでしまう
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