「か、カナンさん……それは……!」
自宅の台所。何の変哲もない小さな台所で、俺は信じられない光景を目の当たりにしていた。
「……母上はいつも、この格好で料理していた」
頬を赤らめながらも、カナンさんは堂々とその姿を晒していた。これもまた男のロマンか、むしろ欲望と言うべきか。
前から見れば綺麗な曲線美を描く肩や鎖骨のラインを楽しめる。母性的なエプロンの裾から覗く生足は鍛えられながらも、無駄な筋肉がない。胸の素晴らしさは言うまでもないだろう。たゆんたゆんだ。後ろから見ればうなじの美しさもさることながら、背骨のラインが走ったスベスベの背中が絶景だ。目線を下にやれば、蜥蜴の尻尾が映えたお尻が存在を主張している。つるりとした桃のような曲線と、くねくねと艶めかしく動く尻尾。その上で蝶結びにされたエプロンの紐が、プレゼントの包装のような可愛らしさを演出していた。
裸エプロン。
この目で拝める日が来ようとは。
「素晴らしいお母様ですね」
「う、うむ。この格好は若干恥ずかしいが、母上は立派な方だぞ」
言いながら、カナンさんは魚を捌く。普段剣を使っているだけに刃物がよく似合う。裸エプロン姿で包丁を握る彼女はかなり色っぽい。しかも彼女が持参した包丁はジパング製の物で、刃の美しさがカナンさんの手さばきを引き立てる。
「何かお手伝いすることは?」
「いや、お前は待っていてくれればいい。お礼なのだし……」
魚を見たまま言うカナンさんの姿を、後ろからじっと眺める。この状況で視線を外せるわけがない。
さてみなさん(誰のことだ)、俺様が今カナンさんの裸エプロンを前にして、一番興奮していることは何か分かるだろうか?
たゆんたゆんの双峰もぷりぷりのお尻も、鱗に覆われた手も全てが神々しいまでに素晴らしい。だが思い出して欲しいことがある。俺様はニオイフェチだ。
ぴっちりした戦闘服に覆われていた体が、今前面の布一枚を除いて解き放たれている。当然、服の中に溜め込まれていた彼女の体香も発散される。俺は自分用にも気付け薬を作っておくべきだったかもしれない。鼻から侵入して脳を犯すニオイに、もう抑えが効かなくなりそうなのだ。カナンさんも裸体を見られ興奮しているせいもあるだろう、まさしく男を虜にし、発情させるためのニオイが放たれている。魔物に詳しい奴に「リザードマンにそんな能力は無い」と言われても、俺は信じない。
「おっと」
魚の骨を足下に落としてしまい、カナンさんは前屈みになって拾う。その際拾いやすいように足を開いたせいで、魅惑的なお尻が一層強調された。すぼまったお尻の穴がよく見え、俺も姿勢を低くすれば『割れ目』も見えそう……
そんな光景を前にしては正気は保てない。気づいたときには、彼女と数十センチという距離にまで近づいていた。以前店に来たジャイアントアントのフェロモンに釣られ、ふらふらと着いて行きかけた時を思い出す。そのジャイアントアントは既婚者だったため、俺をでこぴん一発(めっちゃ痛かった)で正気に戻してくれたが、今回はそうはいかない。カナンさんは俺を惹きつけている自覚がないのだ。
俺の鼻に、彼女の髪のニオイが入ってくる。気品のあるニオイに、石鹸の香り。思わず顔を近づけ、しっかり嗅いで確かめた。
「んっ……おい、息がくすぐったい……」
「ご、ごめんなさい」
謝りつつも、俺は止めることができなかった。髪のニオイを堪能した後、首筋の辺りに顔を移す。無我夢中で呼吸すると、甘くも爽やかな汗のニオイを感じることができた。この白いうなじに触ってみたいという欲望を辛うじて抑える。
「お、おい……何を……」
「こ、香水がカナンさんに合っているか確かめなくてはなりません! 義務なんです!」
苦し紛れの言い訳だが、半分は本当だ。今カナンさんが身に纏っている香りはラストノート、つまり最後に表れる香りだ。これが彼女の体香りとマッチしていることを確かめたい。というか味わいたい。
「そ、そうか……分かった」
義務という言葉が効いたのか、カナンさんは納得してくれたようだ。彼女の生真面目な性格を逆手にとったようで罪悪感を覚えたが、これで心おきなく嗅ぐことができる。
肩、そして脇の下辺りのニオイを確かめる。汗の溜まりやすい部位なだけに濃厚な体香が感じられた。ゆっくりと深呼吸し、ニオイを胸一杯に吸い込む。多幸感が広がった。
続いて肘の辺り。鱗に覆われたこの箇所からは、香水の香りが特にする。領主にでも教わったのだろう、正しい位置に香水をつけているようだ。肘や膝の内側など、脈打つ箇所に少量ずつつけるのである。香水とはふとした仕草のときにふわりと匂うのが粋なのであり、プンプン漂うほどつけてはそもそもマナー違反だ。
とまあ、そんな講釈は置いてお
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