「では、この部屋を使ってください。僕は寝ますので」
俺と同い年くらいの兵士が、俺達にそう言った。
「ああ、ありがとよ……」
「あ、ありがとうございます」
俺達が礼を言うと、兵士は欠伸をしながら去っていく。すでに深夜なのだから、眠いのは当然だろう。
俺とミンスは顔を見合わせる。彼女が「ごめんなさい」と呟いた。
「謝ること無いって」
「で、でもっ……」
ミンスは泣きそうな目で、じっと俺を見つめていた。濃紺の綺麗な瞳だが、こんな顔で見つめられたくない。
「わ、私のせいでコルバさんは、ま、町いられなくなったし、そ、それに私、コルバさんを……」
……町から逃げ出した後、俺はひたすら西を目指した。ルージュ・シティの詳しい場所など知らなかったが、それしかなかった。俺の荷車は魔力で移動を補助するパワーアシスト式荷車という代物で、重い荷物を積んで走っても殆ど疲労しない優れものだ。旅の魔法使いが溜まったツケの代わりにと置いていった物なんだが、重宝している。
とはいえ暴走したミンスに散々搾られた後に、荷車を引いて全力疾走したのだから、いくら体力のある俺でも相当疲労した。丘を越えるときにルージュ・シティの兵士達(夜戦の訓練をしていたらしい)に出会うことができなければ、何処かで倒れていたかもしれない。
そして今、ひとまず『亡命者』扱いで、街の城塞に泊めてもらうことになったのだ。魔物と人間の完全共存を掲げているのは伊達じゃないようで、兵士達も人間の男だけでなく、隊長がトカゲの尻尾の生えた美女だったり、馬に跨った美女だと思ったのが下半身が馬の魔物だったり、衛生兵に至っては全身が半透明の蒼い粘液でできた女性だったり、多種多様だった。
「ミンス、死んだ親父が俺にこう言ったんだ。店で飯を食ってくれた人を、他人だと思うな……ってな」
俺はミンスの頭をそっと撫でた。牛の耳がピクピクと動く。
「俺は身内を助けただけだ、当たり前のことをしたんだよ」
「で、でも私は、こ、コルバさんを……」
「それは……どうせ乳揉んだ仲じゃないか」
彼女が言うには、ミノタウロスの仲間は赤い物を見続けると興奮して暴走するらしい。あの騎士が着ていた鎧が原因だったみたいだ。
……牛は色盲だから、本当は赤を見ても反応はないって聞いたことがあるが……まあ、魔物は別だよな。
「こうなった以上は一蓮托生だろ? この街で一緒に暮らそうぜ」
「こ、コルバさん……」
そのとき、背後につかつかという足音が聞こえた。
振り向くと、そこに立っていたのは顔に包帯を巻いた不気味な男。ミンスが俺の背後に隠れる。
「おっと、お邪魔したか?」
意外と気さくそうな声だった。包帯の合間から覘く目も、何処か優しげだ。
「あんた、ここの兵隊じゃ無さそうだな?」
「ああ、一昨日来た者だ。市民権をもらえるまで時間がかかってな、まだここに寝泊まりさせてもらっている」
その言葉を聞いて、俺はふと不安を覚えた。
「俺たちも今日夜逃げしてきたんだけど、市民権って簡単にはもらえないのか?」
「いや、俺は一人だから、教会のスパイじゃないか調査されててな。そっちは魔物と夫婦だから、すぐに受け入れてもらえるだろう」
「ふ、夫婦……」
ミンスの顔が真っ赤になる。今鏡を見たらまた暴走するんじゃないか?
「魔物と共存しているような街なら、俺の容姿についてとやかく言われることも無いと思ってきたが……まあゆっくり市民権が出るのを待つさ。……俺はエーリッヒ=クラウ。ケチなギター弾きだ」
「コルバ=ラグネッティ。こいつはミンス。ところであんた、こんな時間に何を?」
「水を飲んできたんだ。立ち入り禁止区域以外は自由に歩いていいことになってる。あんたらも風呂でも浴びてきたらどうだ? 大浴場はまだ開いてるぞ」
それだけ言うと、そいつは「おやすみ」と手を挙げて、俺たちの隣の部屋へ入っていく。
俺もミンスも相当汚れているので、言われたように大浴場に行くことにした。廊下を歩いている最中、ミンスは幸せそうな顔で「夫婦……夫婦だなんて……♪」と呟き続けていた。そんなに嬉しかったのか。
これからこの街でやっていけるか、不安もある。だがミンスが側にいてくれれば、勇気が出る気がする。市民権を得られたら、しばらく屋台か何かで営業して、金が貯まったら店を建てよう。できれば前と同じ内装で……。
そんなことを考えながら大浴場についたが、ここで一つ問題が発生した。
男女の兵士がいる城塞なら、当然男湯と女湯があると考えていたのだが、これが大違い。混浴しか無いのだ。しかしミンスが気にすることなく中に入っていくので、俺も続いた。まあ今更気兼ねする必要はないだろうし、彼女のオールヌードは勿論見たいからな。
服を脱ぐと
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