うう、お腹空きました。
教会の人たちから逃げて疲れたし、ルージュ・シティまではまだ遠いし……。
ああ、私が駄目なホルスタウロスだから、こんな目に遭うんですね……。
あれ? 何かいい匂いが……
… … …
俺は町はずれに住む料理人。名はコルバ。
親父の作った店を継ぎ、旅人相手の料理屋を営んでいる身だが、お世辞にも儲かっているとは言えない。
もちろん、昔は違った。この近辺は交通の要所だったから人通りも多くて、腹を空かせた旅人の多くが俺の店に立ち寄ってくれた。ところが、近年親魔物派勢力が拡大しているとかで、教会の連中が交通規制を出しやがった。
全く、魔物から町を守るのはいいが、あいつらが来てからいいことが無い。聖騎士団だか何だかが町に駐屯して、半分前線基地みたいなことになってるじゃないか。抗議したら「どの道こんな店はじきに潰れるだろう」とかぬかしやがって。一瞬、親魔物派の街へ亡命してやろうかと考えたぜ。
っと、話が脱線したがとにかくそういう訳で、旅人でなけりゃ、町はずれの料理屋にわざわざ来る奴はいない。
だが俺は、親父から受け継いだ店をむざむざ潰す気にはなれない。
駄目人間、欠陥料理人……少年時代には、周囲からそう言われ続けてきた。簡単な料理すらなかなか覚えることができず、凄腕の料理人だった親父と比べられてきた。
今に見てろ、今に見てろと、その執念だけで心を支え、手がボロボロになるまで練習に励んだ。例え夜遅くでも、親父は俺の相談に乗ってくれた。火加減、食材の切り方、スパイスの使い方……全て親父から受け継ぎ、自分の物にしてきたのだ。
そして親父亡き今、俺が店を守らなくてはならない。
「よし、これなら女性客を得られる」
鍋の中をかき混ぜながら、俺はほくそ笑んだ。
鍋の中身は新作料理、薬草30種のスープ。美容・健康に効果のある薬草をえりすぐり、ジパング由来の干した海藻を使った出汁でじっくり煮込んだ代物だ。これなら女性に人気が出るだろうし、噂が広まれば食べに来てくれるお客も増えるはずだ。
作るのには苦労した。原案から一年間、良さそうな薬草を探し歩き、薬草学の文献を漁ってそれらが最も効果を発揮する調理方法を研究し、それに合う出汁を探し、煮込む時間や温度まで研究して完成させた代物だ。
深い琥珀色のスープをすくって、一口味見をする。
我ながら美味い。上品な出汁の味にハーブの風味が重なって、独特のハーモニーを生み出している。
さすが俺。
これはいける。絶対売れる。
「わあ〜、お、美味しそうな、に、匂いですね〜」
「そうだろ? 材料集めから煮込む時間まで、徹底的に研究したからな」
「凄いです〜。お、美味しそうです〜」
……ん?
褒められてつい普通に返しちまったが、今日は店は休みだし、店には俺一人しかいないはず。
ましてや、こんな可愛い声の女の子なんて……誰だ?
「のわっ!?」
綺麗な髪の毛に、やわらかそうなほっぺたをした、可愛い女の子。
だが頭には牛を思わせる角と耳、下半身に目をやると、やはり牛のような蹄がついている。しかも脚の露出している部分は、白と黒の毛で覆われている。
そして何よりも目を引くのは、その胸。人間の間隔からすれば規格外の巨乳が、薄い布越しに強烈な存在感を主張している。その上、ブラという物をつけていないらしく、乳首の部分がちょんと盛り上がっている……!
「ま、魔物!?」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
俺の声に、牛少女はびくんと震えた。
「美味しそうな匂いがして、つ、つい入り込んじゃったんです〜。ご、ごめんなさい〜」
間延びしたような声で、どもりながら謝る。か、可愛い……。
いやいや、理性を働かせろ俺。いくらまともに女を話すのが久しぶりだからって、相手は魔物だ。油断させて食うつもりだろう、きっとそうだ。
あれ、でも牛って草食じゃないか?
いやいやいや、魔物なら肉食うかもしれないだろ。
でもこんなに立派なおっぱいをお持ちなんだぞ? 豊穣の女神様ですかってくらいだ。これは素晴らしい。
いやいやいやいや、おっぱいは関係ないだろ。そりゃ、巨乳好きだけど。
ヤヴァイ、思考が泥沼化していく。どうすりゃいいんだ畜生。天国の親父、あんたならどうする? 揉むか? 揉むのか?
って、なんで親父を貶めるようなこと考えてるんだ、冷静になれ俺!
「あ、あ、あのっ」
「えっ、ああ、はい!」
呼びかけられ、俺の思考は現実へ戻る。
「ごご、ご迷惑おかけしました、い、今からで、出ていきますから〜」
「あっ、ちょっと待って!」
反射的に呼びとめてしまった。せっかく自分から出て行ってくれるのに。
だが魔物とはいえ、俺の新作スープをあれだけ「
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