野伏賢斗の帰結3

「……そっかぁ。あのクソ教師の悪事を暴こうってわけね」

 俺の話を聞いて、美緒はふとため息を吐いた。

「ケンちゃんは戦おうとしてたんだ……私と違って」

 なんだか、しみじみとした口調で呟く美緒。ちゃんと話をしたのはいつ以来だったか……そんなことも考えたけど、この状況はどう考えても異常だ。ただ疎遠になってた片思いの幼馴染と久しぶりに話しをした、とかそんなレベルじゃない。

 まず、美緒は今、半裸だ。上半身の服も下着も脱ぎ捨てて、胸をさらけ出している。
 そして俺は、その谷間で顔を挟み込まれていた。

 どうしてこんなことになっているのか、サッパリ分からない。美緒がおもむろに服を脱いで、大きな胸を出した瞬間、俺は吸い込まれるように谷間へ顔を突っ込んでいた。
 メチャクチャ柔らかくて気持ちいい。しかも、なんか良い匂いまでする。汗の匂いに混じって、甘い香りが。まるで催眠術にかかったみたいに、ひたすらその感触と匂いを味わっていた。

「あは……息、くすぐったい……」

 楽しそうに笑いながら、俺を胸から解放する美緒。顔にひんやりした空気が当たる。

「み……美緒……」

 正気に戻れ、俺。必死で言い聞かせながら、声を出す。
 この状況の原因は、どう考えても一つしか考えられない

「あの二人に……何を……された……?」

美緒はクスッと笑い、ゆっくりと目を閉じた。その一挙手一投足がやたらと色っぽく見えるし、肌がぞくっとするくらいキレイで……まるで、あの二人みたいだ。

「色々、してくれたよ」

 瞼が開かれて、美緒の瞳がじっと俺を見た。灰色。マルガ、ハリシャと同じ瞳で。
 唖然とする、っていうのはこういう状態を指すのか。声を出せない俺を見つめながら、美緒は自分のおへそに指をあて、正中線上にをすっとなぞった。すると一瞬で、パッと制服を着た姿に戻った。胸がかなり、ボタンが弾けそうなくらいキツそうな姿に。

 次いで、俺が悪戦苦闘していた部室のドアに手をかざした。指先から線香くらいの小さな光が出た瞬間、鍵がかちゃりと音を立てる。

「ほら、開けたよ」

 元気よくドアを開けて、得意げに笑う幼馴染。部室の戸締りはあっけなく膝を屈したらしい。まだ谷間の残り香で頭がボーっとしている俺の頬を、白い手がぺちぺち叩いてくる。

「カメラ仕掛けるんでしょ? 早くしないと昼休み終わっちゃうよ?」
「あ……ああ……!」

 色々と言いたいことはある、聞きたいこともある。美緒とも、あの二人の魔女とも、もっと話をしなきゃならない。けどそれも、目的は果たしてからだ。

 入室した瞬間、近所のホームセンターで農業用の防毒マスクでも買っておけばよかったと後悔した。部室内は予想以上の汗臭さで、俺からすればこの悪臭だけで虐待だ。美緒の谷間の匂いとはえらい違いで、彼女も鼻に手を当てている。まあこれはクソ教師のせいじゃないかもだけど。
 丁度室内全体を取れそうな場所に棚があったので、そこへカメラを仕掛けた。スマホで動作確認も行った上で、とっとと脱出した。

「ね、ケンちゃん」

 魔法で再び施錠して証拠を隠滅し、美緒はまた俺に笑いかけた。それだけで良い匂いがして、部室の悪臭を上書きしてくれるような、明るい笑顔だ。可愛い女の子だってことは知っていたけど、こんなに美人だったか?

「小さい頃ってさ、私が困ったときにはいつも助けてくれたよね。ケンちゃんが困ってたときは、私が助けてさ」
「……そうだった、な」

 俺が怪我したとき、こいつが走って絆創膏取ってきてくれたっけ。俺は俺で、美緒が野良犬に絡まれてるところを助けてやったりした。
 ちゃんと覚えていてくれたのか。

「ね、私をお嫁さんにしてくれる約束、覚えてるよね?」
「……!」

 ……それも覚えていてくれたのか。

「あはははっ、ケンちゃん、顔真っ赤〜」
「うおっ
#8265;
#65038;」

 熱くなった顔に、柔らかくてスベスベしたものが当たる。今度は胸じゃなくて、頬擦りされている。
 顔が近い。昔、遊びでキスした美緒の顔が、すぐ側に……

「ね、今すぐキスして結婚しちゃおっか?」
「何言ってんだお前!? 本当に何があったんだよ!?」
「あ、ケンちゃん、私が正気じゃないって思ってる?」

 抵抗しようとする俺を抱き締めて、拘束する美緒。振り解けなかった。単に筋力の問題じゃなくて、別の力で押さえつけられているような感覚があった。やっぱり美緒は、あの二人と同じ力を与えられて……いや。

 あの二人と『同じ生き物』になっている。

「正気なの、私。ただ本性をさらけ出しただけ!」

 次の瞬間、唇に柔らかいものが当たった。ほんのり甘い、懐かしい感触。小さい頃と違うのは、舌が俺の口の中へ押し入ってきたことだ。ちゅるちゅる音を
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33