「何日か待ってて。きっと上手く行くから」
その日の夜、マルガがにこやかにそう告げてきた。寝る前にしれっと俺の部屋に現れて、隠してあったエロ本を勝手に読みながら。
「ほほー。ケントって母性溢れる感じのプレイが好きなの? ハリシャが得意だよ、こういうの」
「……」
「あ。さすがに怒ってる?」
「いや、ツッコミ入れる気力が無くなってきた」
こいつら何でもアリすぎる。つーか魔女の装束を着たまま家に来られるとは思わなかった。胸が開きすぎ、というかちょっとジャンプしたらポロリするんじゃないか。
ついでにヘソも出てるし……お菓子食いまくってるのに、お腹スラッとしてるな。ガーターとかふとももとか、たまにパンチラするとか、男の理性を奪いにきてる。そもそもよく考えてみれば、肌の綺麗さからして人間離れしている。童話に出てくる魔女と同じなのはとんがり帽子だけだ。
「あ、それと大事な話を一つ」
エロ本を丁寧にベッドの下へ戻し、マルガは不意に真面目な顔になった。
「後出しでゴメンだけど、願い事を叶えたら代償をもらうから」
「は?」
冷や汗が出た気がする。こいつらは悪いヤツじゃない(と、思いたい)けど、魔女が求める代償って大抵かなりヤバいものじゃないか。人魚姫みたいに声を奪われるとか?
「聞いてねーぞ、そんなこと」
「だからゴメンって。まあボクたちが頂くのはすごく大事なモノだけど、捨てても困らないモノだから安心して」
「……なぞなぞか?」
困惑する俺の前で、マルガはひょこっと立ち上がった。くそ、身長差のせいで目の前におっぱいが来やがる。俺が目を逸らすのに対し、マルガの方は部屋の窓をガラッと開けた。
「中にはお金を払ってまで捨てたがる人もいるくらいだし、ケントも別にどうってことないでしょ。必ずハッピーエンドにしてあげるから、後はお楽しみってことで!」
そういうなり、何でもアリな魔女は窮屈そうに身を屈めて、窓から飛び出した。ここは二階だけど心配はいらない。すぐに四次元スカートの中から箒を出して、ちゃんと窓を閉めてから飛び去った。箒どころか塵取りすら隠せないくらい短いスカートだってのに、物理法則完全無視だ。
町の上を堂々と飛んでいるのに誰も気づかないのは、特定の人以外には姿を隠す魔法を使っているかららしい。立ち食い蕎麦屋で生卵を代わりに食ってやったことがきっかけで、俺がその特定の人に選ばれたわけだ。
多分、願いはちゃんと叶えてもらえるだろう。俺が望んだ通り、美緒とまた仲良くなって、いずれ子供の頃約束したみたいに結婚して、幸せな家族に……と、なるかは分からない。なんかもっとぶっ飛んだことになりそうな気がするし、『代償』の謎もある。後悔したいような、さっき言われた通りハッピーエンドを信じたいような。
だけど一つだけ確かなことがある。俺のクソみたいな日常がぶっ壊されるということだ。
「……やるなら、今のうちだな」
机の引き出しを開け、中に入っているそれを取り出す。バイト代で買った小型カメラ。バッテリーを確認し、壊れないようタオルで包み、カバンに突っ込んだ。
せめて少しくらい、このクソッタレな日常に反撃しておかなきゃ悔しいじゃないか。美緒は俺の行動をどう思うかな……その時になれば分かるか。
手早く寝巻きに着替えて、ベッドに入ろうとしたとき。枕に置かれた、長方形の紙に気づいた。
「う……!」
思わず声を出しちまった。ヌード写真だ。マルガとハリシャ、二人並んでの。
拾ってみると、写真の中の二人が笑顔で手を振ってきた。さすが魔女の写真、めちゃくちゃ動いている。おへそから上だけを写した写真だけど、それだけで十分体つきの綺麗さが分かる。思わず見惚れるくらいの肌の綺麗さ、体の凹凸……特に凸の方。手でおっぱいを持ち上げて見せたり、むにむに寄せたり。すげぇ柔らかそうだ。
『ムラムラしたときに使っていいよ』……裏側にはそう書いてあった。
葛藤の後、俺はその写真をさっきのエロ本に挟んで封印した。美緒のことが今でも好きだと言っておきながら、近い距離にいる女の子をネタにそういうことをするのは……どうなんだと思ったから。
そりゃ人間じゃなくても、魅力的な女の子たちだってことは間違いないけど、あの二人も結局何がしたいんだか。
「えー!? しまっちゃうの!?」
「うおっ!?」
窓をガラッと開け、マルガが文句を言ってきた。こいつ帰ったかと思ったら空中で待機してやがったのか。
「エロいでしょ!? ねえエロいでしょボクたち!?」
「うるせえ! 帰れ痴女! 痴魔女!」
部屋の隅にあったクイッ○ルワイパーで威嚇して追っ払った。手で直接突き飛ばそうものなら、うっかり胸に触ってしまいそうだから。
鍵をかけカーテンも閉め
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