5 工作船アルエット号

キャラック
遠洋航海用の大型帆船。
三本か四本のマストを有し、多層式の船首楼・船尾楼を持っており、横幅の広いずんぐりとした形状をしている。
安定性が高いため射撃プラットフォームとしても優秀で、軍艦としても使われた。

ガレオン
キャラックから発展した大型帆船の形態。
キャラックより船首楼を低く、船尾楼を高くし、スマートな形状にすることで安定性と引き換えに速力を上げた。
マストは三本から五本。
大量の貨物を運べるため、輸送のみならず多数の砲列甲板を備えた戦列艦へと発展した。










 接舷したガレオン船……アルエット号に移乗した俺を迎えたのは、船大工風の筋骨隆々とした男だった。優雅な船名に似つかぬ髭面だったが、隣に例のガンダルヴァが舞い降りるとその肩を抱き寄せた。ガンダルヴァの方も嬉しそうに身をすり寄せる。
 髭面の船大工に豊満な体つきの美女。ともすれば不自然な取り合わせだが、不思議なことに『お似合いの夫婦』であるように見えた。

 男は俺の顔を見るなり、ポケットから字の書かれた紙切れを取り出し、読み上げた。

「えーと……アマロ・アドルフォ・クラウディオ・レオン・サン・ウィルギルス・デ・カーナンドル・イ・パスキード船長ってのは、あんたか?」
「その通りだ。あとアマロ船長でいい」
「それを聞いて安心した」

 笑って紙切れをしまうと、男は手を差し出して来た。

「俺はギュスター。このアルエット号の船長で、エロス信徒だ。こいつは妻のミランダ」
「よろしく〜」

 ガンダルヴァも陽気に挨拶をする。アルエット号には人間の他に様々な種族が乗っていた。タコの下半身を持つスキュラに、ゴブリンやドワーフと思われる小さな魔物たち。人間は概ね男ばかりのようだ。
 ギュスターと握手を交わしつつ話を聞く。

「アル・マール島のエロス神殿にお告げがあってな。愛の女神様の命令だ、ここであんたの船を改造する」
「ここで?」

 覆わず訊き返した。ここは沖の真ん中だ。しかしギュスターは得意げに笑う。

「このアルエット号はクイン・ディアナ島とマトリ島が共同開発した工作船……動く修理工房だ!」






 その後俺が見たのは未知の技術だった。砲窓かと思っていた舷側の窓が開いたかと思うと、そこから木でできた『腕』のようなものが伸び、エル・ヴァリエンテ号をしっかり取り押さえたのだ。さらにその先に付いたハサミ状の器具が器用に動き、傷んだ外板を取り外し、交換していく。
 マストの根元でも多数の歯車が動き、謎の構造物がより大きな木製の腕へと変形した。アルエット号の乗員たちがそれらに新しい素材を取り付け、俺の船へ移送する。

 他にも座礁した船の救助、沈没船の引き上げといった作業をこなせるとのことで、まさにギュスターの言葉通り動く工房だ。乗員の多くは腕の良い船大工で、特にスキュラはその足で舷側やマストに張り付き、時にはその沢山の足で複数の工具を操って作業に励んでいる。

「あんたの船は良いハーフロマダイトブリッグだ。だがコートアルフの技術を使えばもっと良くなる」

 木の腕が動き、エル・ヴァリエンテ号のマストから帆が外されていく。少し破れた程度でまだ仕えるが、ギュスターは新たな帆を着けると言った。

「船首に衝角をつけよう。マトリ製の衝角はぶちかましに使うだけじゃなくて、水の抵抗を減らして速力が上がる。船底のフジツボを落としてコーティングすればさらに抵抗が減る。それにコートアルフ製の帆布はシルフの力が宿っていてな、風に恵まれやすくなる。類稀なる高速船が出来上がるぞ」
「速度が上がれば操舵は難しくなるな。うちの操舵士はまだ経験不足だ」
「ああ。舵を大型化して、舵輪を魔法のかかったやつに交換しよう」

 うちのみたいにな、と後甲板を指差すギュスター。なるほど、さきほど航行しているとき、アルエット号は一人で舵をとっていたのが見えた。このサイズの巨船となると数人がかりで舵輪を回すことも珍しくないが、一人で動かせるくらい舵が軽くなるということか。

「大砲も魔法弾を使うのに変える。魔力の高い砲手なら一人か二人で全門操作できるはずだ。乗組員が愛天使様なら大丈夫。雷臼も一門乗せよう」
「雷臼?」
「雷を落とす臼砲さ。昔の大海戦でサイーダ島の連中が使った兵器を小型化した代物でな、ブリガンティンにも一門だけなら積めるサイズだ。魔界の雷だから死人は出ないが、船には大損害で乗組員も……まあ、戦いどころじゃなくなるだろうよ」

 話している間に、木の腕から吊り下げられた金色の臼砲がエル・ヴァリエンテ号へと降ろされていく。そしてマストには真新しい緑色の帆布が。

「重武装になるが、それでも今までより大分速くなるはずだ。何回お姫様の駆け落ちを手伝っても、絶対に捕まることはないって保証し
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