ダンジョン!

 腕に覚えのある職人たち。
 その手が作り出す、究極の一杯。
 それを求めて集う、冒険者たち。

 信念と食欲がぶつかり合うこの通りを、人はいつしか『ダンジョン』と呼ぶようになった。

 貴方がエンカウントするのは、どんな一杯か……?







 シーフードラーメン専門店『新鮮組』


 濃紺のダンダラ模様が描かれた暖簾が目印のこの店は、ダンジョンことラーメン横丁の入り口付近にある。店に入ってまず目を惹くのは、壁一面に飾られた大漁旗だ。海の男が漁から帰還する際に掲げるこの旗は、街中であっても海の香りを纏っている。
 もちろんここで出されるラーメンは海の幸をふんだんに使った一品。マーメイドやメロウといった海の魔物も、その味の虜となる。

「うちの娘はアニメに影響されすぎて困るよ。この前なんか楽器屋行ってフィンランドの民族楽器買ってきたり……そうやってすぐ飽きるからなぁ」
「あるある。うちのは自衛隊の機甲科に入るって言い出したよ。外国の軍隊じゃどうだか知らないけど、自衛隊じゃ女は戦闘部隊には入れないって言ってるのに……」

 カウンター席では二人組のサラリーマンが雑談している。こうしてラーメン屋で愚痴をこぼすのも、有効かどうかは分からないがストレス解消法の一つなのだろう。無関係な者に迷惑をかけない限りは。
 しかしこの二人の愚痴も、店主が注文の品を差し出すまでのことだった。

「『斬り込み海鮮ラーメン』、お待ち!」

 目の前に置かれた一杯を見て、二人は即座に意識を切り替えた。器の中という小さな空間に、店主の創意工夫と誇りが凝縮されている。まず目を引くのは麺の上に盛られた、エビ、ホタテ、魚、イカ、タコなどの魚介類。そして緑色のワカメが漂うスープ。仕事帰りの中間管理職二人は、まずはレンゲを手にそのスープから取り掛かった。一見澄んだスープとて薄味とは限らない。魚介の味が染み出したその一口には複雑な味わいが渦巻き、飲み込めば風味が五臓六腑に染み渡る。

「やっぱりたまらないよなぁ」
「うん、俺は魚臭いのはダメなんだけど、ここのは臭いんじゃなくて『魚の香りがする』よな」
「出汁が違うな」

 客に背を向けて調理中の店主は、その言葉を聞いて満足げな笑みを浮かべた。魚臭さではなく『香り』、そしてそれを引き立てる『出汁』。彼が常にこだわり続けているものだった。
 やがてサラリーマン二名は勢い良く麺を啜り始める。細麺にはよくスープが絡み、ますます魚の香りが堪能できる。店にはどんどん客が入り、『新鮮組』は今日も繁盛していた。



「あー、働いた働いた」

 閉店後、店主・海東武雄は肩を叩きながら、戸締りを確認する。窓もカーテンを閉めた上で、彼はいそいそと服を脱いだ。着替えるでもなしに、素っ裸の状態で厨房の裏にある秘密の部屋へ向かう。そこは彼の秘蔵の出汁が作られる場所であり、彼の最も愛する女性がいる場所でもあった。

 小さな部屋の中央に置かれているのは五右衛門風呂のような、ぬるま湯の入った大きな桶。中には緑色の海藻がゆらゆらと漂い、水面を埋め尽くしている。これがスープの材料であることは分かっても、武雄の妻だと分かる者はいないだろう。
 だが彼が桶を覗き込むと、海藻の一部が盛り上がる。下から浮かんできたのは女性の顔だった。緑がかった白い肌は彼女が人外であることを示し、妖しげな美貌を引き立てている。

「……おつかれさま、たけお」

 フロウケルプはにっこりと微笑んだ。武雄はその頭を撫でつつ、もう片方の手で桶の湯を少し舐めた。上品ながらもコクのある出汁が取れている。これこそ彼のラーメンの決め手だった。フロウケルプから取れる出汁は海鮮の味を引き立て、臭みさえも旨味の一部に取り込んでしまう。もちろんただ出汁を使えばいいわけではなく、これを活かすのが職人たる武雄の腕だ。

「お前のおかげで今日も好評だったよ、フウ」
「んー」

 笑顔を向けあいながら、武雄は妻に手を伸ばした。滑らかな肌に触れた途端、彼女の海藻が絡みついてくる。フロウケルプの海藻はねっとりと吸い付き、容易にははがれない。妻の体をしっかりと抱いて、武雄はフウを桶から引っ張り出す。体から生えた海藻がずるずると引きずられ、垂れた出汁が床を濡らした。
 フウは夫の背中に腕を回し、愛おしそうに抱きついて頬ずりする。滑りを帯びた柔らかな肢体を抱え、武雄は彼女を部屋の隅へと連れていく。プールで使われるウレタンマットが敷かれていた。その上に二人揃って横になると、フウは体をずらし、武雄の下半身へと移動する。

 水分を十分に含んだフロウケルプは豊満な体つきで、動くだけでたわわに実った胸がぷるんと揺れる。武雄は生唾を飲み込んだ。見慣れた妻の体だが、このいやらしい肢体には毎度感銘を受ける。体が乾いたら乾いたで
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