人魔共学で生徒数も多いこの高校では、部活動も様々だ。剣道部だけでなく剣術部があったり、銃剣道や薙刀、魔法部、占術部なんていうのもある。サバト部というのも存在するが、どこで活動しているかは誰も知らないという。恐ろしい話だ。手芸部のような一見まともそうな部も、マッドハッターが部長だったりするので油断ならない。
そんな中で俺が入っているのは映画研究会という、それなりに文化的でそこそこ常識的な部だ。この学校の中では。人魔混在だからいろいろカオスなこともあるが、俺としてはこの部活を気に入っている。少なくとも休んだことはないし、二年に進級した今年は後輩もできてより楽しくなってきた。
今日もまた授業が全て終わった後、部へと向かった。
「合言葉をどうぞ!」
鍵のかかった部室のドアをノックすると、中から女子の元気な声が聞こえてくる。一回咳払いをして喉の調子を整え、大声で答えた。
「S-foils in attack position!」
ネイティブの発音にできるだけ近くしたつもりだ。あまり意味はないが。
カチャリと音がして、内側からドアを開けてくれた。白い髪をした一年生の女の子、つまり後輩。目元に刺青の彫られた顔に快活な笑顔を浮かべて出迎えてくれる。
「木戸先輩、お疲れ様でーす!」
「お疲れ様、多野さん」
元気な挨拶に、こちらも愛想よく答えた。だが彼女の下半身、ブルマ姿が目に毒だった。ブルマというのはいろいろな問題から大昔に廃止された服装のはずだが、魔物のいる学校では彼女たちの嗜好で復権してきている(短パンかブルマの好きな方を選べる場合が多い)。アマゾネスである多野明日香さんは、丸出しのふとももに幾何学的な刺青が彫られ、お尻からは蛇腹状で紫色の尻尾が伸びていた。現代っ子とはいえ元々ハンターであるアマゾネスは動きやすい格好がいいだろうし、活発な彼女によく似合ってはいる。だが、健康な男子には目に毒だ。
「部活くらい制服着てきなよ」
苦笑いしつつ言うと、彼女は悪戯っぽく笑い、すでに部室内にいた学友に駆け寄った。
「空歩先輩が、刺青がカッコイイって言ってくれたから!」
「言ったけど、常時丸出しにしておけとは言ってないぞ」
擦り寄る多野さんに呆れながら、部員の米田空歩は彼女の頭を撫でてやる。この二人は先輩後輩というより兄妹のような仲だ。米田は体育関係が学年トップクラスにも関わらず、運動部ではなく映研に入っている映画好きだ。机に光線剣のレプリカ二本が置かれているところを見ると、二人で殺陣の再現でもしていたのだろう。
机の上には他に、DVDだの資料本だのが散乱している。棚にはキャラのフィギュアやプラモデルも飾ってあった。俺はいつも通り、部屋の隅に置かれたパイプ椅子を引っ張り出して着席する。
「他の連中はまだ?」
「半田と中井は絵里奈先輩に金を返しに行ってる。あの人と関わるなって言ったのに……」
「帯一と海岸寺先輩は?」
「演劇部に頼まれて殺陣のアドバイスに行った。依田先生はサバト部の方だろう。海路廉と稀玉カレンは分からないけど、瀬吉良はそのうち来るだろうさ」
そう言って米田も席に着いた。忙しない多野さんも彼の隣に座る。
「そうだ、注文してた『プラン69・フロム・インナースペース』のDVDが届いたんだけどさ」
いつも通り映画の話題を繰り出すと、途端に二人は吹き出した。
「本当に買ったんですか、あの伝説のクソ映画を !? 」
「パッケージに堂々と『映画史上に残る最悪の出来』って書かれてた。一人じゃ怖いから一緒に見てくんない?」
「勘弁しろよ、友達の家で一回見たけどもう沢山だ! まあ監督の映画への熱意と愛情は尊敬できるとして……」
賑やかになり始めたとき、ふいに誰かが戸を叩いた。多野さんが立ち上がり、ドアへ駆け寄る。合言葉制の導入は遊びではない。この学校の名物である、ガスマスクを装備したマンティスが部室に入り込んで念力を使ったり、手芸部長のマッドハッターがやってきて意味もなく胞子を撒き散らすのを防ぐためだ。
「えすふぉいるず・いん・あたっく・ぽじしょん!」
多野さんが鍵を開け、部員の一人が顔を見せた。ふんわりした黒髪に、くりくりとした目の女の子。彼女も後輩だが、多野さんと違い制服姿で、尻尾も刺青もない。
「いらっしゃい、藍ちゃんっ」
「明日香ちゃん、いつも早いね」
軽く言葉を交わし、彼女……瀬吉良藍は足早に部室へ入ってくる。この学校で数少ない、人間の女の子だ。本人に確認したわけではないが、多くの魔物と違い耳が尖っていないし、天使やアンデッドにも見えないので人間なのだろう。
瀬吉良さんはいつも俺を見てはにかんだ笑みを浮かべ、隣に座る。
「ども、先輩」
「やあ」
魔物だらけの学校では
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