キミの牛さん

 レスカティエの空から青色が消えていった。みやこがある方から、真っ黒な雲がどんどんひろがって、ぼくのいる牧場の空までおおってしまった。マモノがきたんだとか、ゆうしゃ様がアクマにされたかもしれないとか、いろいろなうわさが聞こえた。

 町へ買いだしに行っていたぼくは、おおあわてで牧場へかえった。でもおやかたや、オトナたちは一人もいなくなっていた。牛たちもいない。にげてしまったのか、それともマモノに食べられてしまったのか分からないけど、とてもこわくなった。おやかたは気に入らないことがあると、すぐにぼくをなぐるけど、一人ぼっちの牧場はもっとこわかった。

 ぼくは物置にとびこんで、毛布にくるまってずっと、ずっとふるえていた。くすねてあったチーズを少しずつ食べながら、じっとしていた。外を見るのもこわかった。だってあの黒い雲を見ると、今にもそこからアクマがおりてきそうだったから。

 外はしずかだった。ぼくしかいないからだ。それがますますこわい。
 ぼくはいつも物置でねて、おきたらヘトヘトになるまではたらかされた。オトナなんて大キライなのに、一人もいなくなってしまったのがとても悲しかった。



 でもしばらくして、誰かがドアをたたいた。びっくりして、マモノがきたんだと思って、毛布で体をかくした。でもマモノがノックなんてするのかな、とも思った。

「誰かいますか〜?」

 その声を聞いて、ぼくははっと立ち上がった。聞いたことのある声。だいすきな声だった。
 ゆっくりとドアがあいて、あの人が入ってきた。市場のロシェリーさんだ。ときどき牛を売りにくる、三角の頭巾とエプロンをした、いつもぼくに優しくしてくれるお姉さんだ。ぼくがなぐられた後、いつもアザに薬草をぬってくれる優しい人だ。ぼくが好きなオトナはロシェリーさんだけだった。

「あら、こんにちは」

 ぼくを見て、ロシェリーさんは優しくわらった。ずっとこわかったから、うれしくてうれしくて、すぐにかけ寄って抱きついた。

「どうしたの? また親方に怒られたの?」

 ロシェリーさんはしんぱいそうに、ぼくを見おろす。いつもみたいに優しくあたまをなでてくれた。いつもと同じ白いエプロンをつけていて、とてもいいニオイがした。
 ぼくは泣きながら、牧場にだれもいなくなった、きっとマモノに食べられたんだ、もうレスカティエの人たちはみんな食べられちゃうんだと、ロシェリーさんに話した。ロシェリーさんはぼくを抱きしめながら、にっこりとわらって、

「そんなことはないよ。町のみんなは……ううん、国中どこでも、食べられたり、酷い目にあってる人なんかいないわ。みんな楽しく過ごしているわよ」

 と話してくれた。でもみんないないんだ、と言うと、ロシェリーさんはエプロンのすそで、ぼくの涙をそっとふいてくれた。

「うーん、私、牛を売りにきたんだけど、誰もいないんじゃ困るなぁ。……そうだ!」

 ロシェリーさんはもってきていたミルクの缶を、ぼくのまえであけた。中に入っているのはまっ白なミルクで、あまいニオイがする。いつもしぼっているミルクとはちがう、もっとこくて、うっとりしてしまうような、とてもおいしそうなミルクだった。
 チーズのかけらしか食べていなかったぼくは、すぐにお腹がなってしまった。

「美味しそうでしょ。売りにきた牛のミルクなの。飲んでみる?」

 コップにミルクをくんで、ロシェリーさんはそれをぼくにくれた。ぼくはお礼を言って、ぐっとそのミルクを飲む。一気にぜんぶ、飲んでしまった。おいしすぎたから。とろっとして、あまさがあって、元気がでる味だった。
 ロシェリーさんがもっと飲んでいいと言うので、たくさん飲んでしまう。今までずっとこわかったけど、ロシェリーさんとこのミルクがあればだいじょうぶだと思った。そのくらい、おいしいミルクだった。

 ぼくがのむところを、ロシェリーさんはうれしそうに見ていた。ぼくはロシェリーさんにも飲ませてあげたくて、いっしょに飲もうよと言ってみた。

「ありがとう。でもね、私は後でも〜っと美味しいミルクを飲むから、大丈夫だよ〜」

 もっとおいしいミルクってどんな?
 きいてみようとしたら、ロシュリーさんはぼくのうしろにすわって、抱っこしてくれた。

「沢山飲んで、大きくなろうね〜。キミは栄養が足りてないから……」

 まるでお母さんに言われているみたいで、あたたかくて、うれしい。ロシェリーさんの声とニオイがだいすき。しあわせな気分で、ぼくはミルクをどんどん飲んだ。おなかいっぱいになるまで。
 ごちそうさま、と言うと、ロシェリーさんはぎゅっとつよく抱きしめてくれた。すると、あたまにふかふかした、やわらかいおっぱいが当たった。

 とつぜん、ヘンな気分になった。体がムズムズした。

「ど
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