極北サウナ「火霊の祝福」

「雪ーのしんぐん(進軍) 氷をふ(踏)んでー どーれーが川やら 道さえしーれーずー♪」

 我らがアイドルイエティ、リッカちゃんは今日も元気一杯だ。

「ウマはたおれる すててもおけずー ここはいずくぞ みなテキ(敵)の国ー♪」

 前回の熱帯から一転、初回のような雪国へやってきた。寒冷地の魔物であるリッカちゃんはもういつも以上にうきうきとして雪道を歩いている。気温は氷点下だが、体温の高い彼女と肩を組んでいるおかげで俺の体は温かい。しんしんと雪の降る夜の村の中を、スタッフを引き連れ楽しく行進していた。

「ままーよだいたん(大胆) いっぷく(一服)やればー たのみすくなや タバコが二本♪」

 楽しく……。

「やかーぬヒモノに はんにえ(半煮え)メシにー なまじイノチの あるそのうちはー♪」

 楽……。

「こらえきれない さむさのたき火ー けむ(煙)いはずだよ 生木がいぶるー♪」

 ……。

「しぶ(渋)ーいかおして こーみょー(功名)ばなしー ス(酸)いというのは ウメボシひとつー♪」
「あのさ、リッカちゃん」

 俺が声をかけると、リッカちゃんは瑠璃色の瞳で俺を見た。そして抱きついてきた。この寒さの中でも褐色の肌を露出させている彼女は、防寒着を着ている俺にむにゅむにゅの胸を惜しみなく押し付けてくる。寒さをしのぐ防寒着がその感触こそ鈍らせるものの、チョコレートプリンのようなそれがひしゃげる姿だけで十分エロい。

「どうしたの、私のプロデューサーさん?」

 屈託なく尋ねてくるリッカちゃん。彼女は最近、俺が自分のものであることを時々強調するようになった。

「ええとね、そういう縁起の悪い歌は止めた方がいいと……」
「だいじょーぶだよー。ちょさくけんがもうしっこーしてるから」
「いや、そういう問題じゃなくてね」

 頭を抱えつつ、俺は前を歩く二人組に視線を投げ掛けた。何故か戦時中のソ連軍の軍装で歩いている山瀬夫妻だ。気配に敏感な彼らは俺の言いたいことを察したのか、振り向いてばつの悪そうな顔をした。

「すまないな、プロデューサー。教えたのはいいが、この歌をここまで気に入られるとは思わなかった」
「絶望的な歌詞の割に、曲のテンポはいいからね」

 山瀬・妻は苦笑を浮かべた。アオオニらしく青い肌だが、魔法瓶に入れた甘酒を飲んでいるせいか夫と手を繋いでいるせいか、顔はほのかに赤かった。
 まったく本当にこの二人は何者なんだ。靴下じゃなくてポルチャンキ(脚に巻く布。ロシアなどで靴下のように使われる)を巻いていたり、常に周囲に目を光らせていたり、ちょっとカタギの日本人とは思えなくなってきた。今更と言えば今更なんだが。

「あ、おちんちんがおっきしてるよ」
「うぐっ!」

 自分でも気づかないうちに隆起した股間が、リッカちゃんのお腹に触っていた。最近こころなしか勃起しやすくなった気がする。ただしリッカちゃん限定で。
 ここでヤるのかよと身構えるも、彼女はいつものようにズボンを脱がせてはこなかった。

「とうしょうになっちゃうといけないから、おフロについたらえっちしようね!」
「う、うん。そうだね」

 ああ、リッカちゃんが思いやりのある女の子で良かった。まあどの道ヤることになるわけだけどそれはそれで。

「きのーみきのまま きらくなふしど(臥所) はいのー(背嚢)枕に がいとー(外套)かぶりゃー♪」

 リッカちゃんは朗らかに歌いながら再び歩き出した。ここは村の中だから遭難の心配はないが、俺はこの企画への不安ばかりがつのっている。熱帯へ行ったかと思えばすぐに雪国へ行けという命令だ。リッカちゃんは大丈夫そうだが俺の身が保つかはあまり自身がない。寒さに耐えきれなくなればリッカちゃんに抱きつけばどうにかなる。その後セックスタイムになるのもまあいいかという気分だ。
 というよりむしろリッカちゃんのモフモフ・ホカホカっぷりを全身で感じるのが癖になってきた。それに俺さえ勃てばいつでも何処でも無邪気に「えっちしようね!」と言ってくれるリッカちゃんが可愛くて可愛くて……いかんいかん。

 だがそれ以上にこの地域は治安に問題がある。魔物排斥主義の過激派が未だに抵抗を続けているのだ。今ではもうかなりの弱小勢力になっているが、狂信的な連中は極めて危険だ。もし襲われたときには俺もリッカちゃんの盾くらいにはなるつもりだが、万が一のとき頼りになるのは山瀬夫妻くらいだろう。

 そもそもうちのタヌキ社長がポンと思いついた企画だ。こんなところに俺たちを放り出しやがって。もしかしたら、いや、きっとあの社長は俺たちを……

「どーせ生かして かえさぬつもりー♪」












………








……





















「みなさ
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