最終話・最後まで騒がしい俺たち

 土埃を巻き上げ、巨竜化したルルがサンドイッチ屋に迫った。大木のような体が唸りを上げ、全てを踏みつぶす勢いで突っ込んでくる。こいつはもう避けようがねぇだろ。いくら魔法で人間離れした脚力を持っていても、これだけ圧倒的な相手じゃどうにもならんはずだ。
 そしてワームという巨大な壁に足止めされている間に、俺の新作クロスボウで……!

「チルル、準備を……」

 言いかけて、クロスボウの弦を引いた瞬間。
 サンドイッチ屋の荷車で寝ていた三毛猫が、突然起き上がった。鳴き声を一つあげて跳び上がり、空中で一回転する。
 どろんという音と同時に煙が噴き出し、猫は小さな身体が人間並の大きさになった。いや、手足や耳、尻尾を除いて人間と同じ姿になりやがった。髪や手足は三毛の色が残っている。尻尾が二本に分かれたワーキャット……あれがネコマタの本当の姿か。

「にゃんにゃん!」

 甲高い声で鳴きながら、三毛ネコマタは荷車の後ろを掴んで持ち上げた。サンドイッチ屋も前方の持ち手を上に上げ、二人で荷車を頭上へ掲げる体勢だ。
 こんなことがあっていいのか。奴らはその体勢のまま地を蹴って飛び上がる。でもってルルの頭に着地し、そのままワームの背中を突っ走りやがった!

「どんだけ商売したくないのアイツら!?」

 アレットの叫びに同意したいが、今はそれどころじゃねぇ。予想外すぎる展開だ。
 だが予想外だからって止まるわけにはいくめぇよ!

「アレット、速度を落とすな!」
「ど、どうするの!?」

 アレットの尻を叩いて加速させ、全力で突っ込む。竜形態のままオロオロしているルルに体当たりする形だ。
 だが俺はぶつかる手前でアレットの背に立った。手を白い肩に置いてバランスを取りながら脚に力を溜め、跳躍。アレットの肩を踏み台にしてさらに跳ぶ。着地点はルルの頭だ。「むぎゅっ」と唸る地竜に向けて、俺は叫んだ。

「ルル、頭を跳ね上げろ!」

 直後に凄まじい勢いで跳ね上がってくる、ルルの巨大な頭部。その勢いは俺の身体を容易く空中へ放り出す。身体にかなりの衝撃がかかり、辺りの木よりも高いところまで飛ばされた。
 何と言う無茶をしているんだ……ふいに正気が蘇ってきた。俺は昔から危機に陥ると、自分の思考も追いつかないような無茶をやらかすことがあった。アレットと会ったときもそうだ、突っ込んでくる馬上槍を素手で奪い取るなんてよ。だがその度に俺は無茶を成し遂げてきた。これがただの偶然なのか、秘めたる力みたいなのが覚醒したのかは分からねぇ。だがそんなときはいつも迷っているヒマが無かったな。

 風を受けながらクロスボウを構え、矢の代わりに肩に掴まっているフェアリー……チルルを掴んで装填する。こいつも覚悟を決めているのか、普段の能天気さの消えた引き締まった表情で標的を睨んでいる。
 サンドイッチ屋はうねるルルの背中を走り抜け、尻尾から飛び降りた。さすがに地面に着地する瞬間は速度が鈍った。しかも担ぎ上げていた荷車を降ろすために減速している。そこへメリカが戦槌を投げつけて足止めを食わせていた。

 俺の目は一瞬で奴らの未来位置を捉え、皮膚が風向きを確認する。全身から送られてくる情報を元に、腕が自然に照準を合わせた。

「行け、チルルーッ!」

 トリガーを引いた瞬間、弦が音を立ててチルルを弾き出す。弾丸となったフェアリーを見送りながら落下する俺を、奇麗な腕とおっぱいが受け止めた。ニッセだ。

「デロイさん、怪我はないっすか!?」
「おう平気だ! ありがとよ」

 俺を抱きかかえながら、ニッセは羽音を立てて地面へと降りていく。その間後頭部にあたるムニュムニュ感を楽しませてもらった。お陰さまで心拍が落ち着いてくる。おっぱいマジ最高。

「デロイ!」
「デロイ殿!」

 地上に着く頃にはアレットとメリカが待っていてくれた。いつの間にか竜化を解いたルルも這い寄ってくる。

「うおっぷ」

 そして四方向から同時にハグされた。つまり四方向からおっぱいに圧迫された。ああ畜生、こいつらなんでこんなにムニュムニュなんだよ。体中に吹き出ていた冷や汗が一気に引いた。
 正面にいるアレットと自然に唇が触れ合う。ぷるぷるした唇に続いて舌の感触で酔わせてくる。

「ん……ふみゅう……
hearts;」

 舌を絡めながら悩ましい声を上げるアレット。このまま本番までいきたいがそうもいかねぇ。

 サンドイッチ屋が荷車を引いて俺の前に立つ。金髪碧眼に東洋風の服を着た長身の男だ。その服の裾をチルルがしっかりと捕まえ、ぶらさがっていた。
 そう、俺たちがこいつを捕まえたわけだ。




「いらっしゃーせ。ご注文は?」

















………








……



















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