朝のルージュ・シティを、嫁どもをぞろぞろ引き連れて歩いていた。俺はアレットの背に乗り、その左右にニッセとメリカが付き添い、昨日捕まえたワームのルルが後ろからついてくる。チルルは俺の肩が定位置だ。繁華街である東地区は午前中から人通りが多いし、こうやってみんなで町を歩けばそれだけで何でも屋の宣伝になる。と言っても今歩いているのは北地区へ通じる人気の無い路地。そのせいで嫁どももどこか不機嫌そうにしてやがる。まあチルルとルルは相変わらず能天気に笑っているがな。
でもってアレットたちが不機嫌そうなのは、俺たちと一緒にいる依頼人のせいだ。
「こうしてみると、お前らもなかなか物々しいな」
赤い目で俺たちを眺め、ヅギは笑う。アレットとニッセはこいつと目を合わそうとせず、メリカに至っては露骨に嫌そうな視線を向けていた。だがまあ、ヅギはそういう目で見られるのは慣れっこだからな。
「なんだかんだで強い嫁が揃っててな」
「ハハ、わざわざ朝っぱらから全員で来なくてもいいのによ」
袋に入ったナッツを食べながら陽気に言うヅギだが、メリカは奴をキッと睨みつけた。
「デロイ殿を貴様のような狂人と、二人だけにしておけるか!」
「メリカ、止めな」
俺は軽くたしなめた。ヅギは平然とナッツを口に放り込み、ポリポリと無頓着に音を立ててやがる。傭兵であるからには罵倒されるのも慣れているわけだが、万が一こいつを怒らせたらヤバイ。俺等の中で互角に戦えるのは元勇者のアレットくらいだろう。
「で、仕事の話を詳しく聞かせてくれや」
本題を持ち出すとナッツを飲み下し、ヅギは懐から小袋を取り出した。聞こえてくる金属音からして中身は硬貨だと分かる。
「こいつでサンドイッチ屋を取っ捕まえてきてほしい」
ヅギはアレットの背にいる俺へ袋を放り投げたが、メリカがさっと手を伸ばしてそれをつかみ取った。用心深いこいつのことだ、毒や火薬でも入っていないか警戒しているんだろう。そうやって俺を守ろうとするところは可愛いけどな。
メリカはアレットに小袋を渡し、アレットがその中身を確認する。こいつらヅギを警戒しすぎだろ……まあ気持ちは分からんでもないけど。アレットの馬体に乗っている俺はその中身が見えた。量自体は少ねぇが全て金貨……依頼料としては結構な額であり、同時に仕事の難易度が推測できる額でもある。
「そのサンドイッチ屋ってのは?」
「リアカー引きながら旅をして商売してる奴らだ。オレも一回食ったことあるけど、もう絶品でさ」
「それがこの町に来てるってこと? 自分で買いに行けば?」
アレットが訝りながら尋ねる。ヅギが俺にヤバイ仕事をさせるのを心配しているわけだ。まったく可愛い奴め。
「ひゃぁっ
#9829;」
あまりにも可愛いからうっかり胸を揉んでしまったりする。ヅギからの「相変わらずだな」みたいな視線を感じた。
「昨日そいつらがフィルマンのパンを買って、リートゥス兄弟の所で肉を仕入れていった。今日辺りからこの町で売り出すっぽいんだけど、そいつらいつも客から逃げ回るんだよ」
「はぁ!? 何だそりゃ、コカトリスか?」
ヅギは俺の言葉に軽く笑うと、昨日のように咳き込んだ。アレットがはっとヅギの方を見る。やっぱりどうも嫌な音の咳だ、病魔使いのアレットは当然気づいただろう。しかしそんなことはお構いなしに、ヅギは声をかける間もなく話を続けた。
「そいつらはワイル……『三毛猫サンドイッチ』って言ってな。人間とネコマタの二人でやってる。往く先々で客から逃げ回って、誰かに捕まったときだけサンドイッチを売ってくれるんだ」
「何でそんな訳の分からねぇことを!?」
「知るか。奴らの事情なんてどうでもいいんだよ」
今ひとつ理解の追いつかない俺だが、ヅギはその疑問をばっさり両断しやがった。
「大事なのはそいつらの逃げ足が超速いこと、それと売ってるサンドイッチが凄まじく美味いことだ。シュリーたちにも食わせてやりたいんだけど、オレは用事があってさ……頼むよ」
「……分かった、引き受ける」
俺がそう返答してもアレットたちは文句を言わなかった。ヅギがシュリーさんの名前を出したからだろう。こいつが住んでいる教会のシスターであり、町の住民から信頼の厚いローパーだ。ヅギがこの町で暮らしていられるのも、シュリーさんに信用されているからってのが大きい。加えてヅギもシュリーさんのことは大事にしていて、その辺はアレットたちも認めているわけだ。
まあ俺が気にしているのはこの仕事の内容と……ヅギのくれた金貨を貯蓄に回せば、後どのくらいで家が買えるかってことだがな。
………
……
…
「病んでたね、
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