「ワームわむ助出ておいで〜。出ないとアソコをほじくるぞ〜」
「ほじくるぞ〜!」
チルルと一緒に酷い歌を口ずさみながら、アレットはトコトコと森の中を歩く。これからドラゴンの端くれと一戦交えるってのに呑気なもんだ。まあ勝算はあるし、例え出てきてもアソコをほじくることになるんだろうな。
その背に乗る俺は久々にクロスボウを手にしていた。ワーム狩りをすると急遽決まったからニッセに取って来こさせたんだが、こいつは俺が自分で作った一品ものだ。矢ではなく弾丸を発射するバレットクロスボウというタイプで、特製弾丸を使うように改造してある。
対するアレットは腰に短めのサーベルを帯びているだけだ。こいつは元々魔術が得意で、人間時代は「武芸と治癒魔法を使いこなす勇者」として名を知られていた。魔に堕ちた今は癒しとは真逆の力を使うが、この作戦でも役に立つだろう。
「ワームさん、どこにいるのかな?」
「きっと出てくるよ。ボクらのデロイがいるもんね」
楽しげに言うアレット。可愛いからおっぱい揉んでやる。
「ほれほれ」
「やぁん
#9829;」
いやあ、我ながら緊張感の無い山狩りだ。まあアレットが言うように、ワームの習性を考えれば俺がいるだけで向こうから勝手に出てくるだろうが。
普通の魔物の力は自分の夫が他の女に狙われにくくするが、バイコーンは逆だ。虫を除ける植物があれば、虫をおびき寄せる植物もある。簡単に言ってしまうとバイコーンのハーレム形成能力というのは、自分の夫が魅力的に見えるようにするってことだ。アレットたちの目に俺がどれだけイイ男に映っているのかよく分からんが、とにかく男目当てで動くワームをおびき寄せる餌は俺で十分だ。ワームを止めるには男を与えるしかない、なんて言われるくらいだし。
大事なのは遭遇後、こっちが主導権をがっちり掴むことだ。
「……デロイ」
ふいにアレットが脚を止めた。声にも緊張が感じられる。
「来たか?」
「そうみたい」
チルルが俺の肩に止まり、しっかりとしがみついてくる。俺はアレットの背から飛び降り、クロスボウの用意を始めた。肩当てについたハンドルを回して弦を引き、ポーチに入れた弾丸を装填する。弾はチルルが木の実をくりぬいて作った代物だ。小さなフェアリーだけにこういう細かな細工は得意らしい。
アレットも腰のサーベルを鞘から抜いた。魔界銀製の白い刃が甲高い音を立てる。柄の黒い装飾と赤い宝石が白い手によく映えていた。凛々しい目つきは人間の勇者だったころの名残だろうが、戦う動機は大きく変わっている。まあ俺も同じだがな。
目には見えなくても、明らかに「それ」は迫ってきた。ビリビリと地面が脈動しているのを感じる。知能は低いとはいえドラゴンの一種、しかも体力だけなら魔物の中でも最強レベルであり、毒の類いも一切効かないって話だ。だがチルルの作った弾丸と俺の腕、そしてアレットの力があれば……やれる!
「……来る!」
アレットが叫んだ次の瞬間。
数歩先の地面がボコリと盛り上がった。そしてそこから出てきたのは、角の生えた女の頭。
「おとこぉぉぉぉぉ!」
「うおおおおおぅ!?」
目を爛々と輝かせる女の子の顔、お乳丸出しの上半身、そして甲殻に覆われた下半身がずるずると地面から出てくる。その金色の目は明らかに俺を狙い、地面を抉る勢いで突進してきやがる。確かにワームは「地竜」なんて呼ばれる魔物らしいが……
「本当に地中から出てこなくたっていいだろうがーッ!」
絶叫とともに、俺はクロスボウのトリガーを引いた。強力なバネによって弾き出された弾丸は鈍い音を立てて飛翔し、ワームの額に直撃する。狙い通りだ。
木の実の弾丸が砕け、中から粉末が飛び散る。男を手に入れるまで止まる事がないと言われるワームが途端に動きを止めた。俺の目と鼻の先で。
「ふぇ……くしゅん! くしゅんっ!」
意外にも甲高い声で可愛いくしゃみを連発するワーム。チルルの特製胡椒弾は効果覿面だ。『魔物に効く毒は限られるし、仮に一撃で殺せる毒があったとしても人間には扱えないだろう。だが人間同様に呼吸する生物なら、呼吸器への攻撃は効く』……知り合いの傭兵から教わった手口なんだが、俺みたいな凡人が魔物とやり合うときには確かに便利だ。人間より嗅覚に優れた魔物にスパイスの刺激臭は強烈だろう。
とは言ってもドラゴンの端くれ、男を目の前にしてこれくらいで参りはしない。
「くしゅんっ! このぉ! くしゅん!」
くしゃみを続けながらもワームは迫ってくる。ぞっとするような鉤爪がもはや目と鼻の先にあった。アレットと出会ったときのことを思い出す。あのときもアレットの槍が眼前まで迫っていたっけ。
だが。
「チェットォウ!」
奇声と共に放たれた暴風のような
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