第二話

 晴れた日の昼下がり、僕とお姉ちゃんはいつも一緒に軒下に座っていた。
 お姉ちゃんはよく三日月型の細長い果物を口に含み、先端を舐めしゃぶっていた。ピンク色の唇が小さな音を立て、時々隙間から小さな舌が見える。時々横目で僕を見下ろしながら、彼女は一心不乱に果物をしゃぶった。

「んみゅ……ん……ちゅぱっ……」

 ふと唇を離して息を吐くと、彼女は僕に笑顔を向けた。

「ほら、もうちょっとでたべられるよ!」

 唾で濡れた果実の薄皮は膨張していて、舐めはじめたころより一回り大きくなっていた。僕が早く食べたいとせがむと、お姉ちゃんはいい子いい子と言って僕の頭を撫でてくれた。その手は白くて可愛くて、触るだけで幸せな気分になったのを覚えている。
 僕はいつも彼女の尻尾や翼で遊びながら待っていた。お姉ちゃんも僕を退屈させないよう、尻尾を僕の手足に絡めて遊んでくれていた。

「ちゅ……ちゅ……ちゅ……」

 やがてお姉ちゃんの口から断続的にその音が聞こえてくると、僕は彼女の口元を凝視した。優しく舐めることで中身を食べられる果物……ねぶりの果実。彼女はいつもしばらく舐めた後、音を立てて吸うことで仕上げに入っていた。
 白い頬や可愛い唇の動きをじっと見つめていると、やがて小さな音がして果物の先端が少し破れた。彼女はそこから出てきたトロトロの果肉を半分くらい吸うと、それを美味しそうに咀嚼して飲み込んだ。

 僕が待ちきれずに差し出した掌に、お姉ちゃんは残りの果肉をぎゅっと搾り出してくれた。子供だった僕の掌はとろけた果肉で一杯になり、その甘い香りはむせ返りそうだった。
 すするようにしてそれを食べ、こってりとした甘さを味わう。全部食べても手に僅かに残ったカスまで、丁寧に舌で舐めとった。

「おいしかったね」

 お姉ちゃんは朗らかに笑い、ハンカチで僕の口周りを拭いてくれた。

 それがあの頃の日常。
 可愛くて優しくて、いいことがあれば必ず僕にそれを分けてくれたお姉ちゃん。みんなで遊ぶときも、年下の僕をいつも気にかけてくれていたお姉ちゃん。
 あの頃はまだ恋なんて知らなかったけど、彼女は僕の憧れだった。

 そう、今でも……












………









……




















 ……目が覚めたとき、何かが今までとは違っているような気がした。間違いなく自室のベッドにいるのに、いつもの朝ではないように思える。
 回らない頭で記憶を辿り、昨日のことをようやく思い出した。そうだ、お姉ちゃんが……ミュリエルがやってきたのだ。昔と変わらない姿の、アリスのミュリエルが。彼女にカクテルを作って、膝枕をしてもらって、その後彼女の作った夕食を食べた。料理学校で沢山勉強してきただけに味は一級品で、やはり全てがあの頃と同じではなかった。姿は変わらなくても。

 彼女はこの町で、僕の元へ身を置くことになった。領主からはすでに許可を得ているようで、バーの仕事を覚えると張り切っていた。さすがにお酒関係の仕事はさせられないけど、夜食を出すときは頼りになる。
 そして何より、『お姉ちゃん』と一緒に暮らしていけるのが嬉しい。

 これからのことに胸を躍らせ、身を起こそうとして……下半身に何かのしかかっていることに気づいた。毛布がその部分だけぽっこり膨らみ、時々もぞもぞと動いている。

「……ああ、そうか」

 毛布をまくりあげると、可愛らしいピンクの寝間着を着たミュリエルがそこに潜り込んでいた。僕の腰に抱きつくようにして、うつ伏せで寝息を立てている。ベッドが一つしかないので一緒に寝ることになったのだ。僕がソファで寝ると言ってもミュリエルは一緒に寝ると言って許してくれなかった。子供の頃に戻ったつもりで一緒に寝てもいいかと思ったわけだが……これはどうしたものか。

 毛布を取り払われたせいか、彼女はもぞもぞと動きうっすらと目を開けた。その時点で僕はハッと気づく。青い目がぼんやりと見つめる先には僕の股間が……朝の生理現象によって、寝間着のズボンを押し上げるそれがあった。
 しかもミュリエルはあろうことか、僕のズボンの裾をぐっと掴んだ。

「ちょ、姉ちゃん!?」

 まだ半分夢の中にいるのか、彼女は僕の声など聞きはしない。次の瞬間には一気にズボンとパンツをずり降ろされてしまい、怒張した男根が外気に晒された。反り返って天井を指す僕のそれを、ミュリエルは寝ぼけ眼で見つめている。

「ね、姉ちゃん! 駄目だって……」
「……ねぶりのかじつー」
「……え?」

 ミュリエルの小さな手が、ぺたぺたと男根を触りはじめた。そのくすぐったい感触に思わず身を震わせてしまう。
 そして次の瞬間、彼女はそこに口を近づけてきた。

「いただきまふ……」
「止……ッ!」


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