馬車が目的地に着くや否や颯爽と飛び出した男は高速のフロントステップで正門前を疾走。独特の発声でリズムをとりながら悪魔城へ向け突進していった。
「どぅえどぅえどぅえどぅえどぅえどぅえどぅえ」
美しい三角形の軌道を描くこの跳躍走法は、ヴァンパイアハンター秘伝の技であり、アキレウスや韋駄天にも優る走りと称される。
ゾンビたちが地面から這い出る隙を全く与えず墓場を通過。城の入口でいったん立ち止まると、扉が完全に開ききるのを待って、城内へ突入した。
「うわっ!」
「きもちわるっ!」
侵入者に襲い掛かろうとしたスケルトンたちは、プロのハンター特有の動きに肝をつぶし一瞬で戦意を喪失した。
逃げ惑う魔物たちに構わず、男は時計のごとき正確さで三角ステップを刻み続ける。行きがけの駄賃とばかりに調度品を巻き込こみ、床に陶器や硝子の破片をぶちまけながら通路を走破していった。
「ぎゃっ……」
中庭に飛び込んだと同時に聖水を撒き、ワーウルフを撃退。
間髪入れず塔の下までたどり着くと壁に飛びつき、両手足を使ってすさまじい勢いで頂上めがけ登り始めた。転生者の母をもつこの男は、異世界の競技であるスピードクライミングの技術を幼少のころよりたたき込まれていた。その様は憤怒にかられ敵を追う山猿のようだ。
空中で待ち構えていたワーバット達は、予想だにしない攻略を目の当たりにしてあっけにとられ、ただただ見送ることしかできなかった。
手刀で窓を切り裂き、部屋へ侵入すると、奥の暗がりにヴァンパイアが立っているのを見つけた。
「よ、ようやくたどり着いたななあ、人間め。おっ、おお遅かったではないかっ」
ヴァンパイアが精一杯の虚勢を張りながら暗がりから出てきた。不意を突かれて動揺していることがありありと伝わってくる。
しかし、流石に威厳を損ねると感じたのか、彼女は一度咳払いをすると、顔をキリッと引き締め、背筋を伸ばして男に相対した。
「この日をどれだけ待ちわびたことか! おまえに会うため、多くの時を費やしてきた!」
男はプロだ。プロは時間を無駄にしない。
「わた」
「そう」
「あの」
「いつ」
「おま」
「だか」
「さあ」
男は『スキップ』の魔法を発動し、ヴァンパイアの語りをすっ飛ばした。
「おい! 聴いてるのか?!」
怒ったヴァンパイアが大股歩きで近づいてくる。警戒を忘れた隙だらけな動きだ。
「どぅえ!」
男は素早く飛び下がって距離をとると、その場で跳躍を繰り返しながらリズミカルに鞭を振るった。
「そいや、そいや、そいや、そいや!」
「あんっ! やめっ、ふざけるなっ、やぁん!」
ウンディーネの加護を受けた鞭は水の力を宿しており、ヴァンパイアの性感帯を責め苛むことに特化している。男は決して手を休めることなく、ニンニクを投げつけながら攻撃を続けた。
「いやあ……! なんで、こんな目にっ」
中途半端に衣服を裂かれ、裸よりも煽情的な姿にされたヴァンパイアは、とうとう膝を屈し、床に手をついた。
だが、戦いはまだ終わっていない。本番はこれからだ。ヴァンパイアの魂が宿る、白亜の城のごとき高貴な肉体を、おのれの身ひとつで攻略しなければならない。
男はベルトのバックルを鳴らすと、ズボンを下ろした。
「ちょ、ちょっと待って、さすがにムードとか考えて――」
ずぷん、
どぴゅ!
「あん
#9829;」
NKT
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