数日後…、朝の仕事が無い時間に酒場近くのカフェテリアで朝食を取っていると、街が突然騒がしくなり始めた。騒ぐ人々の声の中に、黒いドラゴンという言葉があった。それを耳にしたヴァイスは静かに笑みを浮かべながら、コーヒーを口にした。
「マズい、こっちに来るぞ!!警備隊はまだか!?とにかくこの場から離れるんだ!!」
その叫びを聞いたのが最後だった。街の人間はカフェテリア周辺から離れ建物の陰へ隠れ様子を伺う。しばらくすると龍はカフェテリアの前に降り立った。それを感じ取ったヴァイスは背を向けたまま立ち上がり声を掛けた。
「…随分と騒がしい再会だな。もう元気になったのか?」
『あぁ…おかげさまで』
「そいつは何よりだ。で、どうした?酒でも飲みに来たか?」
『それもだが…』
そう言うと龍の体が光り輝き始めた。その光にヴァイスは振り向き身構える。すると光の中から女が現れそのまま彼に抱きつき、そして途切れた言葉の続きを口にした。
「私を伴侶にしてほしい」
これには流石の彼も驚きを隠せなかった。現魔王の影響で魔物が女の姿をしているのは知っていたが、まさかその魔物…しかも魔王の力を受けてなお過去の姿を維持できる地上の王者が、求婚してきたのだから。
「これはまたブッ飛んだ内容だな。……お前さん、自分が何を言ってるのか解ってるのか?」
「解ってる。貴方は私の一番大切な『宝物』。他の男なんかじゃ務まらない!お願い、私を貴方の傍に置いて欲しい」
半ば涙目になりながらもその目から伝わってくるものは揺るがない決意だった。ヴァイスは顔を隠すように帽子を深く被り、苦笑した。まさか自分が誰かと一緒に暮らす日が来るとは夢にも思わなかった。
「やれやれ…女にここまで言わせてダメだとは言えないな」
「じゃあ…!」
「あぁ、お前さんの事、貰ってやるよ」
「嬉しい…!!」
受け入れられたことで彼女の顔は花が咲いたように笑顔になった。すると彼女はそのままヴァイスの手を取り走り出す。
「おい?ちょっと待て、どこへ行く気だ?」
「もちろん私の住処よ、そこで暮らそう」
「馬鹿を言うな。俺には酒場っていう自分の城があるんだ。お前さんがこっちに住めば良いだろ?」
「けど…、周りの人間は私を見て怯えちゃってるけど…?」
周りに目をやると、二人のやり取りを遠巻きに伺う街の人々と、警戒態勢を維持したままの警備隊の面々が此方をじっと見つめている。その様子にヴァイスはため息をついた。
「それはお前さんのせいだ…。全く、地上の王者ならば多少は慎みを持て。とりあえず警備隊の連中に話を通すから一緒に来い」
「シャリル」
「ん?」
「私の名前。お前さんじゃなくて名前で呼んで欲しい」
「……わかった。行くぞ、シャリル」
「はい、貴方」
シャリルはヴァイスの腕を抱くように腕を絡めて寄り添う。
「なぁ?さっきから気になってたんだが……」
「なに?貴方」
「今までと随分口調が違うんだが…」
「だって夫である貴方に偉そうな口は利けないもの」
ヴァイスは威厳の欠片も見えなくなってしまった彼女を見て複雑な気分になった。
「すまんが警備隊長はどこだ?コイツ…シャリルについて話がしたい」
「は、はい!直ちに呼んで参ります!」
「すまんな。後、町長も呼んでくれ」
「了解しました!」
警備隊の一人に声を掛け用件を伝えると、慌てた様子で走っていった。そしてしばらくすると、警備隊長と町長がやってきた。
「それで…我々に話とは?」
恐る恐る現れた二人に、ヴァイスは事の経緯を話した。そして、この街の治安の向上を条件に住まわせることを提案した。しばらく渋っていた隊長と町長ではあったが、シャリルの必死な願いにより承諾する事にした。こうしてシャリルはこの街の特務隊として、またヴァイスの花嫁として迎えられた。
そして夜を迎え、いつも通り酒場を開いた途端、祝いの品を持った常連客がどっと押しかけ盛大な宴会が繰り広げられた。普段なら店内にあるレコードから流れるジャズやバラードも全く聴こえないくらい騒然であった。
「いやー!めでたいねぇー!」
「まさかマスターが結婚するとはな!しかも相手はあのドラゴンでかなりの美人さんだ!マスターも隅におけないなぁ!」
「よっ!流石はミスター・ハードボイルド!」
「バカ野郎。からかうんじゃねぇよ」
「またまたぁ、照れなくても良いのに。へへへ、俺マスターのこんな表情初めて見たぜ!」
「…ったく。テメェ等は」
悪態をつきながら、シャリルの所へ向かう。
「…どうだ?酒の方は?」
「産まれて何百という年月を生きてきたが…これほど美味しいお酒は初めて。本当に美味しい」
「なら良かった。一応シャリルの為に特別に用意しておい
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