俺は海堂 夏(かいどう なつ)。今俺は魔界にある温泉街へ来ている。傷心旅行というワケではないが、日頃の溜まった疲れを癒すために温泉に入りたかったからだ。どうせならのんびり休みを取ろうと思い、バイトで貯めたお金を奮発して、最近話題の旅館に一泊二日で泊まることにしたのだ。旅館に着いた俺はすぐにチェックインを済ませるためにロビーの受付へ向かう。
「いらっしゃいませ、夜桜へようこそおいで下さいました。ご予約のお名前は?」
受付で出迎えてくれたのは雪女の方だった。和風な雰囲気の旅館に似合う大和撫子って感じだ。
「あ、海堂 夏です」
「海堂 夏様ですね…。はい、確認致しました。お待ちしておりました。本日より御一人様で一泊二日でのご宿泊ですね。当館の御利用は初めてでしょうか?」
「はい」
「では、ご説明させて頂きますね。当館を殿方御一人様で御利用の際は、私達従業員の一人が貴方様に付かせて頂きます。何か御座いましたら遠慮なくお訊ね下さいませ。…此方がお部屋の鍵となります」
「ありがとうございます」
手渡された鍵にはアクリルの棒の様な物がついていて、そこには308と書かれていた。コレが部屋番号なのだろう。
「では、お付けになる従業員をご指名されますか?」
そう言って彼女は従業員の顔写真が載った用紙を見せてくれた。この人は「雪姫(ゆき)」さんっていうのか。うーん…正直好みの問題だけど、何も考えて無かったからなぁ。
「えっと…じゃあ、雪姫さん。貴女でお願い出来ますか?」
「私ですね?かしこまりました。では、お荷物をお持ちいたします」
受付から出て来た彼女は俺の手荷物を持ってくれた。
「では、お部屋へご案内致しますので」
「お願いします」
彼女の案内で、俺は泊まる部屋に向かった。転送ポータルに乗るのは初めてだったのでおっかなびっくりだったけど、これはすごく便利だな。あっという間に三階に着いた。
「此方で御座います。どうぞお入り下さい」
そう言って彼女は部屋の前で止まった。俺は部屋に入った途端感嘆の声を上げた。純和風の部屋でとても落ち着いた雰囲気が素敵だったからだ。
「うん…良いですね、この感じ」
「ありがとうございます。お荷物は此方に置いておきますね」
「あ、ありがとうございます」
「では、簡単に当館施設の御利用方法をご説明させて頂きますね」
雪姫さんの説明を一通り聞いた俺は、ひとまず温泉街へ出ることにした。やっぱりまずは観光だ。知らない土地を散策するのが旅行の醍醐味だろう。何があるか知っておきたいし。
「やっぱり温泉街なだけあって色々な種類の温泉がありますね」
「そうですね。ウンディーネとイグニスの二大精霊のご加護によって温泉が湧きますが、そこにそれぞれ魔界で採れた資源を駆使したりして色々な温泉を作り出していますからね。例えば、右手にあります温泉施設は魔界ハーブのエキスを温泉に加えたものとなっております」
「へぇ〜。じゃあ一日じゃ全制覇は難しいか」
「ふふ、あまり入りすぎると湯当たりしてしまいますよ?」
「ですよね」
なんて他愛ない話をして笑い合っていると、腹の虫が鳴き始めた。
「そういやもうお昼過ぎてましたね」
「では、私オススメのお茶屋さんをご紹介致します」
「オススメですか。期待ですね〜」
「ふふふ、きっとお気に召しますよ。さ、参りましょうか」
雪姫さんはニコリと微笑み、俺の手をそっと握った。その行動に思わずドキリとしてしまう。見れば彼女も少し顔を赤らめさせていた。嬉しいやら恥ずかしいやら。俺は出来る限り平静を装いながら彼女の手を握り返し、微笑んだ。そしてお互い顔を真っ赤にしながらお茶屋さんへと歩いた。
「流石は雪姫さんオススメのお茶屋さん、美味しいです」
「ありがとうございます」
お茶屋さんに着いた俺達は各々食べたいものを頼み、昼食となった。因みに彼女のオススメはわらび餅という事だったので、食後のデザートとして注文してみた。
「…うん、甘過ぎずそれでいてきな粉の味もしっかりしていて美味い」
「良かった。…夏さん。はい、あーん
#9829;」
雪姫さんは竹串に刺したわらび餅を俺に向けて差し出した。ヤバい、コレは超恥ずかしいぞ。
「あ…あーん」
「ふふふ…すごく恥ずかしいのに、何だか楽しいです」
そんな風に笑顔を見せられてしまったらこっちまでにやけてしまうじゃないか。俺はゆるゆるになりそうな頬を何とか引き締めて笑顔を返した。
「すみません。ご馳走して頂いて」
「いえいえ、楽しかったですし、良い場所を教えてくれたお礼です」
昼食を終えた俺達は再び温泉街を散策した。彼女の案内で温泉街を守る神社でお参りをし、お揃いの御守りを買った。
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