わるいひと

青い空、青い海、真っ白な砂浜…。只今夏真っ盛り。海水浴に来ている人々が思い思いに楽しんでいる。その中にこの場所に不釣り合いな男が一人、砂浜を歩いていた。男はこの暑さにも関わらず、黒のスーツを身に纏い、頭には黒の中折れ帽子を被っていた。見ているこっちが熱中症になりそうなくらいの黒ずくめの格好である。しかし、男は汗のひとつもかかず涼しい顔で歩いている。

「あら、格好良いお兄さん。そんな暑い格好してないで私と遊びましょう?」

男は途中でサキュバスに声を掛けられる。彼女は男を誘惑する様に胸元を見せてきた。

「すみません、私今仕事中ですので」

男はそれをやんわりと断ると、再び歩き出す。サキュバスが「クールでステキ…♪」と呟くのが聞こえたが、男は聞かなかった振りをしてこれ以上関わらないために足早にその場を去った。



海水浴場から離れ、岩場だらけになった場所で、男はある岩場の影に身を潜めた。

「さてと。情報によるとこの辺りの筈ですが…」

男は腕時計で時間を確認する。

「時間的にもうしばらく掛かりそうですねぇ」

男は岩影からある開けた場所を覗き込んだ。どうやらここで何かある様だ。

「それじゃ、その間に軽く食事でも済ませますか」

辺りの確認を終えた男は内ポケットからひとつの箱を出し、そこからスティック状の物を取り出して食べ始めた。どうやら健康食品的な食べ物らしい。

「…………ん?」

ひとつ食べ終え、ふたつめを食べようとした時、妙な視線を感じた。殺気は感じられないが確かにじっと見られている。気になってそちらに目線を向けると、目から上を海面から出している何かがいた。頭に神官のものと思われる白い帽子が見えるので恐らくシー・ビショップなのだろう。しばらくしてこちらの視線に気付いた彼女は慌てて海の中に潜っていった。

「…………………」

男は暫し呆気に取られていたが、再び食事を再開する。また暫くして視線を感じ顔を上げると、先程と同じように目から上だけを海面から出して此方をじーっと見つめていた。なかなかシュールな光景である。男は妙な空気に耐えきれず、波打ち際に近付いて彼女に声を掛けた。

「………あの、私に何かご用ですか?」

すると彼女は徐々に顔を出しながら近付いて来た。そして岩場に体を乗り出すと、無言のまま指をくわえてじっと男を見つめる。よく見ると、若干目線が上下している。それに気付いた男は自分の手元にあるこの食べ物を見ているんだと解釈した。

「……コレが欲しいのですか?」

男が訊ねると彼女は目を輝かせてコクコクと首を縦に振った。男は箱から新しいものを取り出して「あまり美味しいものでもありませんよ?」と言いつつ彼女に手渡した。すると彼女は手渡されたそれを嬉しそうに食べ始めた。

「では、私はこれで」

男は元居た岩影に戻ろうと踵を返す。が、片足が動かない。見れば彼女が足を掴んでいた。

「あの、まだ何かご用ですか?私今仕事中なんですが…」

「どんなお仕事をされているのですか?」

今まで言葉を発しなかった彼女が突然質問してきた。男は少し驚いたが、それに対し謎めいた言葉を紡いだ。

「そうですねぇ。『悪い人が悪い人をやっつける仕事』とでも…言っておきます」

「貴方は悪い人なんですか?悪い人をやっつけるのに?」

「ええ、私は悪い人なんです。ですから例えば貴女の大事な石板を壊したり、帽子を破いたりも平気でやっちゃいます」

そう言った直後、彼女は石板と帽子を守るように胸に抱え込み、目を潤ませながら男から距離をとる。今にも泣き出しそうな表情だ。

「あー…実際にはしませんから安心してください。あくまでも例えですよ、たとえ」

「ほ、本当ですか…?」

「えぇ、本当です。貴女は悪人ではないでしょう?」

彼女はブンブンと思い切り首を縦に振った。

「なら、貴女は私の標的には入りません」

「よ、良かった…」

大きな安堵の息を吐くと、再び近寄ってくる彼女。しかし、男は片手を前に出して制止させた。

「おっとすみません、そろそろ時間のようです。貴女は危ないですから早くお逃げなさい。いいですね?」

「えっ…?」

男は素早く元居た岩影に身を隠し、開けた場所の様子を窺った。しばらくすると、10人程の男を従えた髭面の男が現れた。見れば全員大きな袋を背負っている。中身は恐らく何処かから奪ってきた金品だろう。

「来ましたか…」

男は投擲用のナイフを三本指の間に挟み込んだ。そして髭面の男の足元より少し前を狙って放り投げた。

「だ、誰だ!?」

髭面の男は足元に突如突き刺さったナイフを見て慌てて辺りを見回した。

「これはどうも。お初にお目にかかります。盗賊団首領『マルコ=ディーガ』」

「お、お前はっ…『ツクヨミ』!」

髭面の
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