ザー―――――……。
「今日は雨ですか…」
朝早くに目覚めた咲夜が店の出入り口から空を見上げた。どんよりとした灰色の雲が空一面を覆っている。見ているだけでも気分が沈んでしまいそうだった。気分を払おうと振り返ると丁度ヴァイスがワインの瓶を片手に酒蔵から出て来た。
「あ、おはようございます」
「あぁ。悪いがちょっと出掛けてくる。夕方には戻る」
「どちらへ?」
咲夜が訊ねると、少しの沈黙の後、野暮用だ。と言い残して店を出て行った。
「おはよう、咲夜」
「おはよー」
「おはようございます」
しばらくしてシャリルとフィリアが起きてきた。
「あれ?お兄ちゃんは?」
フィリアがヴァイスの姿を探して辺りを見回す。
「朝早くにお酒を1つお持ちになって出掛けられましたよ」
「どこへ?」
「さぁ……野暮用、としか」
「どうしたのかしら…?いつもなら行き先くらいは言っていくのに」
いつもらしからぬヴァイスの行動にシャリルは少し戸惑う。
「何か真剣な顔をしていましたし、ただならぬ理由があるのかと…」
「気になるわね…。ちょっと後つけてみるわ」
「あ、フィリアも行くー!」
「でしたら私も。気配を隠すのは得意ですから」
「じゃあ早速後を追いましょ」
そう言って三人はヴァイスの後を追った。
「……あれからもう十年か」
ヴァイスは過去を思い出しながら街中を歩いていく。
『俺達は二人で一人の探偵だ。なぁ相棒』
『あぁ。僕達はベストパートナー。二人揃えばどんな難事件でも解決さ』
「ベストパートナー…か」
そう呟き、空を見上げる。相変わらず灰色の雲に覆われた空。降り続ける雨。
「あの事件の時の空も、こんな感じだったな…」
『戻ってこい…!まだ、まだお前はこっち側に戻ってこれる!』
『ダメだ。もう僕は君の元へは戻れない…』
『何言ってんだ!俺達は二人で一人の探偵だろ!?』
『すまない、ヴァイス…』
「…………」
ヴァイスはそこで過去を振り返るのを止めると、近くの花屋に入っていった。
「花屋に寄ったわね。何の為かしら?」
「誰かにプレゼント…もしくはお供え、ですかね?」
「何のお花買うのかな?」
「もう少し様子を見ましょ」
後をつけていた三人は出て来るのを待った。しばらくしてヴァイスが出て来た。よく見ると何かの花を持っていた。色鮮やかな花ではなく、白と黄色という、落ち着いた感じの花であった。
「あれは…ユリの花?けどもうひとつは何かしら?見たことがないわ」
「フィリアもあのお花は知らない。何のお花かなぁ?」
「菊…。菊の花ですね」
「キク?」
「はい。ジパングでは有名な花です。しかし…ユリと菊だなんて…」
その花の組み合わせを知った咲夜は表情を曇らせる。
「咲夜?」
「あ、すみません」
「どうしたの?咲夜お姉ちゃん」
咲夜の表情を見た二人は、あの花に何か意味があるのかと思い始めた。
「何でもありませんよ。私の思い過ごしかもしれませんし…。あ、ヴァイス様が動き始めました」
再び歩き始めたヴァイスの後を、三人は気付かれない様についていった。
「街を出たわね。どこまで行くのかしら?」
「何だかお兄ちゃんの背中見てると、悲しくなってくるの…。何でかな?」
フィリアがぽつりとそう言った。その言葉に咲夜が想像していたことは確信へと変わった。
「やはり…そういう事ですか」
「咲夜?どういうこと?」
「ついて行けば、自ずと分かりますよ…」
街を出て、海の方へ向かうヴァイスに視線を送りながら、咲夜はそう呟いた。
後をつけてからおおよそ2時時間程経過しただろうか。海沿いに辿り着いた彼は、近くにある廃墟に入っていった。
「あそこに何かあるのかしら…?」
「とりあえず行ってみましょう」
三人はヴァイスの姿が完全に見えなくなったのを確認して、廃墟へと向かった。
「……久し振りだな」
ヴァイスは廃墟の中にある、大きな瓦礫の前に座り込んだ。その瓦礫には『ジン=アルビレオ』と何かで削った様な文字が書かれていた。
「なかなか来れなくてすまなかったな。ほら、酒だ。昔お前が飲みたいって言ってた『スピカ』だ。丁度良い具合になったからな、遠慮なくやってくれ」
そう言って花を供え、持ってきたワインのコルクを抜くと、名前の書かれた瓦礫―慰霊碑―に掛け、自分も一口飲んだ。
「あれからもう十年か…。俺ももういい歳したオッサンになっちまった」
ヴァイスは静かに近況を語り始めた。店の事、依頼の事、シャリルの事、フィリアの事、咲夜の事…。その様子は楽しそうであり、酷く悲しいものでもあった。
「咲夜…これって」
「はい…。お墓参り…です
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