俺は自分の店の前で呆然と立ち尽くしていた
これからどうすれば良いかがまったく分からない
「あれ?イヴァンはんやないの、店の前でボーっとしてどないしたん?」
隣の店の店長がなにやら話しかけて来ているようだが、まったく耳に入らない
あぁ……俺の人生もこれで終わりだ……いや……それ以上に今までこの店を守ってきてくれた親父や爺ちゃん、ご先祖様に申し訳ない……
なんか泣けてきた………
「え!?ちょ?ホンマに大丈夫かいな、なに急に泣いとんの!?一体なにがあったん!?」
しかし短い間とはいえガキの頃から憧れていたこの店の主人になれたのは嬉しかったなぁ………
あぁもう、どうせ駄目なら一か八かで有り金叩いて人生を賭けた大博打に出てみるっていう手もあるか
「ん?なんやこの紙?なんかの請求書みたいやけど…なになに……金貨5000枚!?……」
「確かに今のイヴァンはんやと店は立派やと言ってもこんなに払えるわけ無いわなぁ……」
いや、いっその事夜逃げして……いやいや…俺だけが助かっても店が助からなかったら意味がないじゃないか……
やっぱり博打で金を増やすしかないのか………
「こうなったらウチが一肌脱いだろか予定よりちょっとずれたけどイヴァンはんをウチのものにできそうやし」
「ちょっとイヴァンはん!」
「ふぁい!?」
急にデカイ声で話しかけられたので思わずビクッてなってしまった
そういえばこの人居たんだっけか
「……ムジナ、何か用か?」
「何や理由は知らんけどもその請求書の事で困っとんのやろ、ウチがなんとか出来るかもしれんからちょっと家によってくれへんか?」
……俺も仮にも自立している商人の端くれ、こんな事であっても自分の事は自分で責任を持つべきだと俺は思っている
彼女の誘いはありがたいが、断るべきだと思う
それに相手は商売敵なのだから、情けをかけてもらうのも恥ずかしい話だ
「いや、自分で何とか「何とかできへんからこんなとこでボケとんのやろ!グダグダ言っとらんとはようついて来な」
「………おう」
「………イヴァンはんはウチのことを商売敵やと思っとるやろうけどな、それはウチも同じや」
「だけど『敵に塩を送る』っちゅう言葉があるんや、別に借りを作ったろと思っとるワケやないから素直に受け入れな、店の信用のことを心配するんやったらウチは黙っといたるから心配せんでもええで」
………変に見栄を張って得する事も無い、か
それで店が潰れても良いことなんて何一つ無いしな
俺は彼女に誘われるままに彼女の店に入っていった
とりあえず俺は彼女にこの請求書についての説明をすることにした
助けてもらえるのだから理由ぐらいは教える義理があるからな
「あ〜………つまり隣町の大商人と協力して近くにある鉱山を買い取ったけど、その鉱山がドラゴンに乗っ取られた上にドラゴンを追い出すために雇った傭兵も惨敗してこれだけが残ったと」
「…………あぁ」
腕が立つとはいえドラゴンの相手を傭兵に任せたのは失敗だったなぁ………
そもそも鉱山が乗っ取られたからって二人ともムキになって取り返そうとしたのが間違いか………
「………商人なら身の丈にあった商売をするのが基本やろ?店を持って商売するならなおさらや、堅実にいかんとあかんやろ」
「何も言い返せねぇ………」
お前を出し抜こうとして失敗した、なんて口が裂けても言えない
それで失敗した挙句に助けてもらうとか笑い話にもならないしな
「ま、失敗は成功の母とも言うから次からはこんなヘマせんようにきぃつけや」
「んで、本題に戻るけど金貨5000枚っていう金額は流石のウチでも口約束でポンとは出せんから一応借用書を作るからサインしてちょうだいな」
そう言って彼女は店の奥に入っていき、しばらくすると金貨が入っていると思わしき木箱と一枚の紙を持って戻ってきた
「ウチのオカンに大陸で商売するって言う話をしたら『軍資金や!』言うてアホみたいに金をくれたさかい、いざって時のためにとっといたんがこんな形で役に立つとは思わんかったわ」
「………どんだけもらったんだよ」
そういえば前にムジナの母親はジパングでは有名な大商人だっていう話を聞いたなぁ
もしものことがあったら嫌なので借用書に目を通す
「利子は……まぁ1年で1%でええよ元々無いような金やし、ゆっくり返してくれたらええで」
彼女の気遣いに感謝しながら借用書を眺めていると、少し気になる一文があった
今まで借金はしたことないのだが、普通の借用書には絶対に無さそうな一文が書かれている
いや、彼女が魔物であることを考えると別におかしく
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