陥落の夜に黒狼が鳴く

俺が間違いだった

何故魔物を滅ぼさねばならんのか?何故美しい女性の姿をした魔物達を滅ぼさねばならないのか?

そんな疑問をもったばかりにここレスカティエが魔物に攻め落とされる手助けをしてしまったのだ

以前、俺は偵察に来ていたワーウルフを一度倒したしたにも関わらず、逃がしてしまった

一兵士のことなんて友人以外は基本的に気にかけないから黙っていれば誰にも気付かれないし、たかだか偵察兵を一匹逃がしたところで問題ないだろうと思っていた俺が馬鹿だった

確かに一人の偵察兵を逃がしたところで、それがこのレスカティエの首都を攻め落とされた大きな要因ではないのかもしれない

だが、俺は自国を滅ぼす片棒を担いだという重荷が心から離れない

とにかく今は故郷に向かって走るしかない








俺には病弱な姉と、それと対照的に元気な妹が居る

両親は妹が幼いときに他界してしまい、必然的に俺が二人の面倒を見ることになった

今は妹がそれなりに成長したので、姉の面倒を見てくれているが、金銭面はほとんどは俺の仕送りで何とかしている

首都に近いとはいえ、なんの才能も無い辺鄙な村の男がお金を稼ぐには体を張るしかなかった

勇者になれればそれで姉や妹をもっと楽にさせてやれたかもしれないが、才能の無い俺にはかろうじて首都の聖騎士団の兵士になる事が限界だった

尤も、『メルセ』隊長がスカウトしてくれなければただの警備兵で終わったかもしれない

そんな中で理不尽な教団の偉い奴や、俺たち家族を救ってくれない無慈悲な神への信仰心が薄れていくのは必然だろう

唯一、俺の友人である『あいつ』が住んでいるさびれた教会の主である『サーシャ』様に相談に乗ってもらうことがあったりするが

そしてある日、俺は『プリメーラ』様が居る森の警備の任務が来た









いつもの訓練や、偉いやつらの理不尽を聞いているより大分楽な仕事なはずだった

時間になるまで森の中をブラブラしていれば良いだけなのだから

その森には凶暴な動物は住んでいないし、俺以外に任務を受けたものが居ないし、『あいつ』から聞いた話だとその日は『プリメーラ』様も勇者としての仕事に行くらしいので、どこかで昼寝していようが問題ないのだ

そう思い、森に入って適当に時間を潰していると視界の端に何か黒いものが映った

しかも普通の自然界には存在しない……そう、以前任務で近くまで行った魔界の物に近い黒だ

何故こんな首都の近くに魔物が?そう思った時には訓練されている俺の体は自然に魔物の方へ飛び出していた

魔物も一瞬遅れで俺の方に向き直るが、俺の方が一瞬早く、魔物へ剣を振り下ろした

体が今までの経験のせいで自然に魔物を切ってしまったが、俺の心がズキリと痛み、魔物をまた切ってしまった後悔と、いつものように主神への不満が湧き上がる

ふと、魔物の方へ視線を向けると、俺に切られた右肩を左手で押さえ、痛々しい表情でワーウルフが苦しんでいた

その顔は、俺や妹に必死に看病してもらっている時の姉の表情にどこか似ていた

気がつくと俺は持っていた荷物に入っていた応急用キットで自分で切ったワーウルフの右肩を止血し、包帯を巻いていた

苦しんでいる表情を姉と重ねて見てしまったせいで、無意識的に助けてしまったようだ

俺が包帯を巻き終わると、ワーウルフは不思議そうに俺の顔を見ていた

当然だろう、こんな怪我をさせた本人がその怪我の治療をしたのだから

包帯を巻いているときに思ったが、彼女はなにやらいつも見ている魔物とは少し違う雰囲気だった

手足を覆っているフサフサの黒い毛並みは野生のワーウルフにも見れるのだが、彼女の妖しく光る赤い瞳のような宝石が身体や一部分を覆っているのみの服にいくつかあり、纏っているオーラのようなものもどこか他の魔物と違う雰囲気を放出していた

そういえば最近、『メルセ』隊長や他の勇者様からこのような雰囲気の魔物をよく見るという話を聞いた気がする

とりあえず何故首都に近いココの森に来ていたのかを訊ねてみると、彼女はとあるリリムの部下で今日はその偵察に来ていたらしい

俺は少し考え、彼女に背を向けて歩き出した


 「………まさかこんなところに大きな狼が居るとはな、狼は賢いからな、ここまで痛みつけてやったからきっと群れに帰ってもこの辺りは危ないから近寄らない方が良いと報告するはずだ」

 「さぁて、そろそろ森の出口に向かえば指定された時間も過ぎるし、さっさと帰って『あいつ』と酒でも飲みに行くかな」


そう言い残して俺はその場を去った

その場に残されたワーウルフが包帯の巻かれた右肩を名残惜しいように左手で触り、熱い視線を向けていることに気がつかないまま










それから数日後、つまり今日、久しぶ
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