なんで俺が目の前にいる魔物の世話をしなくちゃならんのだ
目が覚めて、隣に寝ているヴァンパイアの温もりを感じながら思う
バッドモーニング、というやつだな
本来ならすぐにベッドから出て色々やらなくてはならないけれども、そのままベッドの中に潜り込む
キュアが起きてくるまでに終わらせれば良い話だ、遅れても怒られるようなものでもないしな
なによりも今朝は寒い、ベッドからは出たくないものだ
別にこいつと一緒に寝たいってわけじゃないんだからな
何かが聞こえる
まったく、人の睡眠を邪魔するんじゃねえぞっての
「ヴァン、おきなさい」
げ、もうおきてきたのか……
「貴方は初めて会ったときとあんまり変わってないわね、かれこれ三十年は経っているのに」
「アンタも三十年経っているのにあんまり成長してないな」
成長しないものもいるけれど魔物は基本的に成長は早い、と以前聞いた事がある
それなのに俺の主の成長は遅い
初めて会ったときはAだった胸も未だにBである
「何か失礼なことを考えていないかしら?」
「別にそんなことはねぇよ」
まったく面倒な主だ
しかし契約を交わしてしまった上、体は既にインキュバスになってしまっているのでこいつからは離れられない
もっとも今こいつの元を離れても、俺は社会的には死んでいるらしいし、お気に入りだった娼婦も今はババアになってしまっているだろうしな
あのときバフォメットにやられた友人はすっかりそいつの下僕になってやがる
年に何回か会う機会があるのだが、段々症状がひどくなっている
別れた後、最初に会ったときはお互いに愚痴をもらしていたのだが……
二回目は彼女に惚れてしまったってことを長々と聞かされ
三回目はのろけ話、四回目は二人の結婚式だ
俺には考えられない
魔物の事については嫌いじゃない、嫌いだったなら騎士を辞めたりしないしな
だが、ボコボコにして、無理やり契約を結ばせてきた相手に惚れるってのが分からない
「ねぇヴァン、貴方難しい事を考えているみたいだけど、そんな難しいことじゃないわよ」
「何でそんなことが分かるんだよ、つーか俺の考えている事が分かるんだよ」
「予知夢でみたのよ」
まったく預言者か、っての
俺の考えている事も全て予知夢で見たから、とお見通し
「予知夢なんて見なくても貴方のことなら分かるわよ」
「私は貴方が大好きだからね」
その上なぜか俺にべた惚れ
逃げるに逃げられない
ふぅ
やっと掃除洗濯その他諸々が終わった
その間、主さんは優雅にティータイム
とりあえず一番面倒なことは終わったな
あとはこいつを適当に犯してやれば明日になるな
流石は魔物というべきなのか何十年も犯してるってのに中々飽きが来ない
そのうえこいつは俺に気に入られようとしているのか、俺好みのプレイをさせてくれるのが良い
俺は別にこいつとだらだら過ごすのは嫌いじゃない
ただ、こいつが一方的に俺を好いているのが気に食わない
俺もこいつの事を好きになろうと努力はしてみた、だがどうも無理だった
聖騎士だった時も、教団の腐りきった本性に呆れ冒険者になったときも、一人の女を愛するっていうのを理解できなかった
そういう時のツケが帰ってきたんだろうな
こいつが一途に俺を思っていてくれても俺の心には届かない
ただそれが気に食わない
「ヴァン」
いつの間にかキュアが俺の目の前に立っていた
そのルビーのような赤い瞳をまっすぐに俺に向けている
「貴方は私のわがままでここに住んでいるけれど、嫌なら別に開放してあげてもいいわよ」
「………」
確かにその提案は魅力的だ
その事を言っている口が震え、瞳がうるうると涙を浮かべていなければな
「馬鹿なこといってんじゃねぇよ」
俺はそう言ってキュアの頭をくしゃくしゃと撫でる
女を泣かせて良いのはベッドの上とプロポーズをしたときだけだ
「相方の居ないインキュバスが生きていけるかっての」
「そう……ありがと…」
そう呟いて俺にしがみつく
胸さえあればもっとよかったんだがなぁ
贅沢は言っていられない、まぁ後数百年もしたら良い感じに成長するだろうがな
その時、突然大きな音が響いた
何事かと俺が困惑していると俺から離れたキュアが言った
「侵入者よ、死にたくなければ迎撃なさい」
まるでこれがおきることを知っていたのであろうかと言うほど落ち着いた声
いつも通り予知夢で知っていたのかも知れないが
とりあえず俺は自分の得物を取りに行くために自室に向かった
まったく、なんという強さだ
一応俺もそれなりに強
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