盗賊の末路

静かな森の中で一台の馬車が走っている

速度は速くは無いのであまり急いではいないのだろう、むしろ自然を楽しむためにゆっくり行っているという風にも見える

馬の手綱を持っている商人が欠伸をしたとき一つの人影が馬車の前に躍り出た

その影はお世辞にも綺麗とはいえないような厚いローブを纏い、顔を見せたくないのかフードを深く被っていた


 「馬車の中の商品を置いていけ、そうすれば命は奪わない」


男性が無理やり高く声を出しているとも、女性が頑張って低く声を出しているとも思える中性的な声だった


 「で、でもこれを盗られてしまうと私の商人人生が終わってしまうんだ、お願いだから見逃してくれぇ」


商人は半分涙目になりながら盗賊に懇願したが、盗賊はそれを許さなかった


 「お前の都合など知ったものか、馬車は見逃してやるだけましだと思え」


盗賊は袖から少し大きめのナイフを取り出して商人に向けながら言う


 「次は無い、さっさと荷物をよこせ」


商人は何か決心したような顔をして言う


 「旦那、出番ですよ」


商人の言葉に盗賊が顔をしかめる、そして馬車の荷台のところから一人の男が出てきた


 「楽が出来るとおもったんだがなぁ、ま、お互い運が悪かったってところだな」


顔立ちはそれなりに整っており、服装も盗賊とは違い綺麗である

ギルドよりも街の役人をやっている方がしっくりくる


 「ギルド経由で雇われた護衛、というところか」


 「そいつを出したからには俺が勝った場合は容赦はしないからな」


盗賊の言葉に商人は怯えた様子だが、男はちょっと意外そうな顔をしていた


 「残念ながら私はそれなりに腕に自信があるのでな、それは無いな」


そう言って男は何かの詠唱を始めた


 「やらせるかよ」


盗賊は男に接近し詠唱をキャンセルさせようとナイフで切りつけるが


 「残念だがそっちはフェイクなんだ」


男の姿が消え盗賊の後ろに現れた


 「すまないが少々眠ってもらう」


男の詠唱が終わり盗賊に煙が吹き付けられる


 「くっ、ち…く……しょう…」


そう言い残し盗賊は昏睡した











のんびりとした馬車の旅ももう少しで終わりを告げそうである

その荷台の中に男と先ほどの盗賊が乗っていた、盗賊はいまだに昏睡しているが


 「旦那、なんでこいつを連れて来たんですか?そのまま置いておけばよかったとおもうんですが…」


商人の言葉に男は無表情で答えた


 「こいつはサキュバスだ」


 「え!?」


男の言葉に商人は思わず手綱を放しそうになるが、そのまま男に疑問をぶつけた


 「なんでそんなことが分かったんですか?」


 「それなりの奴なら魔力量で分かるらしいが、俺の場合は匂いだな」


 「魔物特有の匂いでな、それが特に濃かったからそうだと思ったが…」


そう言って盗賊のフードをめくる

男の言うと通り盗賊はサキュバス特有の角などがあった


 「やっぱりな、さて、ここで商談だ」


 「え?」


男の言葉に商人は少し首を傾げたが、直に真面目そうな顔をする


 「ちょっと報酬を増やしてもらう」

 
 「……」


商人は顔をしかめ、自分の頭の中で損得勘定をしはじめたようだったが


 「まぁ額を増やして欲しいってワケじゃないんだ」


 「と、言いますと」


 「本来の報酬はいらないから、こいつをもらって行っていいか?」


商人は少し呆れたような顔をして言った


 「まぁ構いませんけど…その代わり私の護衛のときに拾ったなんて言わないでください、商人としての名前が堕ちてしまうかもしれないので」


商人の名前が堕ちるということは即ち死を意味する

悪名高い商人からは物を買いたくない、つまりはそういうことである


 「それに関しては問題ない、俺も盗賊を拾ってひどい事をした、なんてばれたら街に居場所が無くなる」


 「それならいいんですけど」


 「なら商談成立だな、ギルドにはうまい事言っておくから馬車を降りるときにこいつはもらっていくぜ」


男はにやりと笑った












薄暗い牢獄を連想させるような一室に盗賊が手足を拘束されていた

意識はまだ戻っていなく、男はその寝顔をじっと見つめていた


 「ふむ、やはり見れば見るほど良い女だが……だからこそ勿体無いな」


男の言葉に彼女が目を覚ました

そして不機嫌そうに男の方に顔を向けて


 「………なにが持ったいないってんだよ」


 「それに俺は男だ」


との一言

男はそのままの表情で女に尋ねた


 「じゃあ二つほど聞きたいことがある、1つ目はお前の名前、2つ目はなんでお前は男だと言い張るのか、だ」
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