街外れの宿屋にて

自分ことウィル=ヘイデンは宿屋の一人息子である
幼い頃から親の仕事を手伝い、跡を継ぐ為に色々と学んできた
街の中心部から少し離れたところにある我が家は、アクセスは悪くないし質も悪くないということで繁盛はしていないが売上に困ることはない程度の人気である
店の規模も大きいとは言えないが小さいわけでもないので家族以外の従業員も3名雇っている程度
一通りの内容を覚え、他の従業員への指示も出来るようになった今日此の頃
経営者として独り立ち出来るようにと両親は仕事を自分に任せて一ヶ月程度の旅行にでかけた
自分としてもいい経験になると思うし、仕事熱心で働いてばかりな両親には羽根を伸ばしてもらいたいと思い了承した
従業員の皆も賛同してくれ、お互いにフォローをしながら特に問題なく一週間をこなした
このまま何事も無く2週間目も行くと思っていたのだが……

「いらっしゃいませ、1名様でしょうか」

「もちろん、見ての通り独り身さ」

「お部屋の希望はありますでしょうか」

「君の部屋で……できれば愛を囁いてくれるオプションをつけてほしいなぁ」

3日前から利用しにきているダンピールが目下悩みの種である
他の従業員は夕方以降は受付と消灯以外の業務がほとんど無くなるために自分一人で対応していたのだが、そこでふらりとやってきたのが彼女こと冒険者プリシラ=インハイルである
どうやら自分に一目惚れしたらしくこうして毎日アタックしてきているのだ
自分としては伴侶を持つのは1人前になってどっしりと構えられる準備ができてからと決めているので少し迷惑な話だ

「そういうのはやってないし俺の部屋は1人用で予約は俺で埋まってるのでだめです」

「残念、君の寝顔を見つめながら朝日を迎えたかったよ」

従業員に相談してもニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべられたり羨ましがられているだけなので助け舟もない状態である
とはいえ客は客なので適当にあしらいつつも仕事はキッチリこなさねば

「朝食はどうする?プリシラさん」

「呼び捨てでいいのに、朝は弱くてサービスの時間に起きれないから残念ながらパスだよ」

「そんな時間に起きるのであればそもそも俺の寝顔を見ながら朝日は迎えられないんじゃないか」

「しまった!」

幸い彼女が訪れる時間帯には他の客が来ることはあまりないので暇潰しにはちょうど良いにはちょうど良い

「ていうか長期で部屋をとっておいた方が安くなるのになんで毎日部屋を取りに来るんだ」

「もちろん君とこうして対話できるからさ、君は売上が伸びてボクは君と話すことが出来る、お互いWinWinでいいだろう」

「ありがたい話だな、今日も同じ部屋が空いてるからそこに入ってくれ」

「またまた君の部屋から一番遠いところかぁ、それじゃあ今日も君を想って一人寂しく慰めることにするよ」

……チェックアウトした後彼女の居る部屋を掃除するのは自分が担当なのでやめてほしいものだ
チラリと彼女の方を見る
短く切りそろえられた金髪に整った顔立ち、腰までの短めのマントや体を見せつけるような薄着の装備はよく似合っており、スラリとしたラインに対して出ているところは出ている体つきはまさに魔物娘といったところだろうか

「うんうん、ボクの体は良いでしょう好きなだけ見ていってちょうだいな、もちろん触り放題だからね」

「……冒険者なのにそんな軽装でやっていけるもんだと関心してるだけだ」

「心配してくれてるのは嬉しいねぇ、今日のオカズがまた一つ増えちゃいました」

「掃除するのが大変だから程々にしてくれ」

あしらいながらこちらが必要な書類にペンを滑らせて手続きが終わったことを伝え鍵を渡すと、彼女は嬉しそうにふんふんと鼻を鳴らし荷物を片手に指定した部屋へ向かって足を進めはじめた
明日もきっと今日みたいなやり取りをするのだろう
こちらが折れるか彼女の気が変わるか路銀が尽きるまでは続くのかもしれないと思うと頭が痛くなってくる





従業員に別れを告げ今日も残りの仕事をそつなくこなす
そろそろまたプリシラがやってくる時間になるだろうかと思っていると案の定入り口のドアが開かれた
なんだかんだで彼女とのやり取りが若干楽しみになってきているあたり自分も徐々に堕とされつつあるのかもしれない
しかし入ってきたのは彼女ではなかった

年季の入った武器を担ぎ、傷跡がいくつも付いた防具を身に纏った三人組の男
見たところ冒険者だろうか

「いらっしゃいませ、3名s「俺たちは強盗だ、金を出せ」」

いつものように手順通りのセリフを話している途中、男1人が腰にかけていた剣をこちらに突きつけた
1人は入り口を塞ぐように立ち、最後の1人は客室側から誰か来ないかを見張っている

「おい、誰かに見られる前にずらかるから死にたくなければ早くし
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