カウンターチャーム

冒険者が移動している最中というものは常に不安に抱えているものである
地形や天候などの自然に関するものだけでなく、野生動物や山賊等に襲われる可能性もあるからだ
更にはそれらよりも脅威になりえるのが魔物娘と自分は考える
直接襲いかかってくる者は脅威度は高くても撃退すれば良いだけと分かりやすいので、ある意味マシかもしれないが、時には甘い顔をして近づいて来た彼女達の手によってそのまま冒険者としての終わりを迎えることになることもあるからだ

冒険者として不安の要素はできるだけ軽くしておくべきだと自分は考える
次の街へ向かう移動時間やルートの確認、野宿に必要な道具と少し余分な路銀だけでは物足りない
万一魔物娘に遭遇した際の対策は取っておきたいものである
しかし、彼女達の魅力的な肢体や美形の顔をどうにかできればいいのだが魔王が代替わりを起こさない限りそれもありえない
できることと言えば彼女たちの言葉や行動に騙されないことと彼女達が扱う魔術に抵抗する手段を得ることである
前者に対しては彼女達に深入りしないことを心掛けている
後者に関しては魔術の才能と知識がなかったので心配だったのだが、前の街を発つ直前に刑部狸の商人からなんと魔術を反射するマジックアイテムを買うことができたのである

割と完璧に近い状態の下準備ができている自分なのだが、まだ不安要素はある
人間の三大欲求の1つ、性欲だ





次の街まで中頃だろうか、そんなことを考えながら森の中を進む
ガサガサと自分が出す以外の草木をかき分ける音が聞こえたので警戒態勢をとる
風はそれほど強くないので野生動物だろうか、もしくは山賊か同業者、魔物娘のいずれかである
武器に手をかけたままじっとしていると音の主が姿を現した
自分と同じようなバックパックを背負った女性なのだが、下着かと思うような扇情的な姿、頭や腰から生えている翼や角、整った美しいとしか言えない顔から察するにサキュバス属の誰かだろうか
まさか、魔物の同業者とは思わなかったが、敵対することはないだろうと考え得物から手を放す
落ち着いた雰囲気と扇情的な恰好が好みのタイプではあるが、悟られるとどうなるか分かったものでないのでできるだけ目線は合わせない

 「こんにちは、ここら辺りは街道が無くてお互い大変ねぇ」

下着と言っても通用する恰好であっても暑いのか額や胸元に軽く汗が浮かんでいる
……決して胸の谷間を見ているわけではない、汗が浮かんでいるなぁと眺めていただけである、道中は気が抜けないので一発も抜けなくて溜まっているわけではないのだ

 「ハーピー運送で運んでもらうにしてもこのあたりだと値段が高いもんな、領主がケチなところだとこういう面でも厄介だな」

俺の言葉にお互い溜息を吐きながら先を目指す、どうやら目指している場所は同じらしい
背の低い草を踏み、木の根に注意しながら並んで進む
言葉は交わしつつも極力彼女の事は気にしないようにしている
気に入られるとどうなるか分からないからである
同じような歩幅で同じような速度、合わせてくれているのか、偶々なのかは分からないが、どことなく心地良い

 「ところで貴方、恋人とかいるのかしら?」

話題がそろそろ尽きようかといった時に彼女は唐突に切り出してきた
こういうことを言われるということは少なくとも彼女は伴侶がいない、その上自分を狙っている可能性が高い
彼女達魔物娘にはこの手の場面で嘘は通用しないが返し方によっては致命傷を負うので注意しなければならない

 「居ないが作るつもりもないな、旅の荷物は軽いほうが良い」

溜息を吐いて言葉で突っぱねる、意固地にならない魔物ならばこれで脈が無いと諦めてくれることも少なくはない
俺の言葉に彼女はふふん、と鼻を鳴らす
なぜそうしたのかは理解しかねるが、彼女が俺の事を諦めなかったということは確かだろう

 「あらあら、そんな邪険にしなくていいじゃない、それに旅なら荷物を二人で持った方が楽なのよ」

歩みはそのままにずずいと距離を詰めてきた彼女をさっと避ける
側に来たせいなのかわずかに香る女の匂いに思わずクラっと来てしまいそうになるのをこらえる
無かったことにしている性欲の目が覚めそうになるのを抑えつつジトっとした視線を彼女に投げ掛けてやる

 「怖い顔をしないでよ、もう」

少しいじけた顔をする彼女のギャップに可愛さを感じるが、顔には出さないように努力をする
どうにかならないものかと考えていると広場のような、テントでも張れるぐらい開けた場所に出た
今日はここらで歩みを止めて早めの休息を取るのも良いか、そう考えたところで彼女も近くに荷物を降ろした

 「いいじゃないこの場所、今日は歩きっぱなしだったからクタクタよ、貴方も一緒に休憩しない?」

うーん、手を上して伸びを
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