正直森の中でテントを張るのはあまり好きではない
見通しが悪く、平原よりも野生動物に襲われる確率が高いうえに寝心地も悪いことが多いからだ
警戒を解くことができないのであまり気が休まらない
とはいえここに到着するのが遅かったとはいえ採取した依頼の品が足りなかった自分の実力不足が原因なので仕方がない……
さっさとこの森で用事を済ませて依頼達成といきたいところである
剣から手を離さずに仮眠をとる
このまま何事もなく夜を明かせれば良いのだが
…
……
………
…………
太陽が顔をのぞかせてきたのか徐々に周囲が明るくなってきた辺りで何者かの気配を感じた
獣とも人とも違う気配……野生動物とも野盗とも違う、魔物だろうか
場合によっては前者二つよりも厄介な存在である、問答無用で襲い掛かってくるタイプであれば荷物を捨てて逃げることも覚悟はしなければなるまい
剣を手にテントから出ると一人の魔物が驚いた様子でこちらを見ていた
「きゃうん!?人間さん、私わるい魔物じゃないから剣をおろしてぇ」
ほぼ全身を覆う栗色の毛、犬を思わせる四肢に尻尾とたれ気味の耳
……嘘をついている様子はなく、本当におびえている様子からヘルハウンドやワーウルフではなさそうである
となるとコボルドか、記憶が正しければ凶暴な魔物ではないので警戒を解いても問題なさそうだ
構えていた剣をおろして、ふぅっと息を吐くと彼女も安心したようだった
「で、何の用だ」
地面に座ると、彼女も同じようにペタンと地面に座り込む
「狩りで獲ったご飯がちょっと多くてどうしようかなぁって考えてたら、人間さんの匂いがしたからおすそ分けしてあげようと思って……」
そうして彼女はおどおどした様子で片手で持っていた大きなウサギを差し出してきた
人の1回の食事量にしては多いが、魔物であればこれだけの量は平らげられるだろうと思うのだが、きっと彼女は小食なのだろう
無礼を働いてしまった手前彼女の好意は受け取っておくべきか、少し早いが朝食にしよう
「それはすまなかったな、お詫びと言っちゃなんだけど、一緒に朝食をとろうか」
俺の言葉に彼女は目を輝かせぴょんぴょんと飛び跳ねた
……そんなに嬉しかったのだろうか
彼女から受け取ったウサギを解体していると不思議そうに横から眺めてきた
「人間さん、何やっているの?」
野生で暮らしている魔物であるならば調理をせずにそのまま噛り付いているのだろうか
流石に人間である俺はそうもいかないのできちんと食べられるようにしなければいけないのだが……
「お詫びだからな、そのまま食べるよりもウンとおいしくしているのさ」
彼女に対しては理屈で説明するよりもこういった方のが納得してもらえると考えた
案の定、俺の言葉を聞いた彼女は再び目を輝かせ、少し巻かれた尻尾をパタパタと振るわせた
解体した肉を下味をしっかりとつけてから焚火で焼く
程よく焼けてきた肉の香ばしい匂いに彼女の顔がニコニコと緩む
「うさぎさんって火をつけるとこんなに良い匂いがするんだー、私初めて知ったよ!」
まだかまだかとそわそわしながらも待つ姿は躾けられた犬を連想させる
焼けた肉と野菜をパンにはさみ軽く塩を振る
完成したサンドイッチとコップに入れた水を差しだすと、彼女はそれらの匂いをクンクンと匂いを嗅いでから受け取る
不思議そうに眺めた後、サンドイッチを頬張ると彼女は目を見開き、プルプルと体を震わせた
「んん〜〜
hearts;すっごくおいしいですこれ!お肉も生よりおいしいし、草とパンっていうこれとの相性もすっごく良いです!」
幸せそうにがつがつ食べる彼女とは違い、自分はしっかりと噛みしめて食べる
冒険者たる者食べるものはしっかりと己の血肉にせねば
「はふぅおいしかった……そういえば人間さんってなんでここに来たの?」
あっという間に食べ終えて、水も飲みほした彼女がキョトンとした顔でこちらを見つめてくる
冒険者について細かく説明する必要はなさそうなので用件だけで十分か、目撃情報もあれば助かるが……
「仕事でこの森にあるこの草を探しに来たんだけど、量が足りなくてな、見たことないか?」
彼女はぷるぷると顔を横に振ったが、何かをひらめいたのかハッと顔をあげた
「その草のある場所は知らないけど、おいしいご飯をごちそうになったから手伝ってあげる!」
元気よく答える彼女にサンドイッチを食べ終えて軽く手を払った俺は思わず彼女の頭を撫でてしまう
愛らしい子犬のような彼女もまた魔物であることの一端を感じる
しかし鼻の利くウルフ属が手伝ってくれるならば心強い
「助かる、手伝ってくれるなら街でもっとおいしいもの食べさせてやらないとな」
もっとおいしいもの、と聞いて先ほどよりも尻尾を激しく振るわせた
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想