おおきなねずみと小さな雑貨店

ふぅ……今日は新入りさんが来てくれたおかげでちょっと売り上げが多いね

いつもなら接客をしている時間よりも、商品を並べたり、店の掃除をしている時間の方が長いしね

………世間話をしにきた人と話すのは接客とは言えない

小さい村の雑貨屋っていうのは案外暇なものだよ










この村は世間から見たらちょっと……いや…かなり変わっている

なぜならば、村長は人間と駆け落ちしたヴァンパイアだし、戦場で名を馳せた傭兵と魔王軍で恐れられていたデュラハンが道場仲良く子供たちに教えるために道場を開いていたりする

冒険者の人たちなら『旅の終着点』や『英雄の墓場』って言ったらわかってくれるかな?

ここは人間と魔物が共存している村、人魔問わず旅に疲れた旅人や戦場から離れた英雄達が迷い込んでくる村

種族の都合等で問題があったりはするけれど皆仲良く暮らしている

来るものを暖かく迎え、去るものは優しく見送る

ここでは人も魔物も皆平等

蛇神信仰者のシスターも、人間との共存するための研究をしていたため魔王軍から追放されたバフォメットさんも

よからぬ事を考えて村に訪れた盗賊や略奪するために訪れる魔物の群れは、村を囲んでいる森の長であるドラゴン様が追い払ってくれる

たまに住民が増えたり、誰かの子供が生まれた時ぐらいしか変化は無いけれど僕はこの村が大好きだ









僕はこの村唯一の雑貨店『ねずみのしっぽ』で店長をやっている

店長といってもお客さんは1日に何人か来る程度だし、店自体も結構小さい

従業員は僕を除けば『一匹』しかいない


 「チュー、チュー」


………今、品物の小麦をかじっている大鼠がそうである

種族はラージマウス、特徴は名前の通り僕の膝ぐらいまでの大きさがあるネズミ

大きさはともかく見た目がかわいいのでこの店のマスコットでもある、たまにこうやって商品を食べてしまうのが玉に傷だけど

………この店の従業員にして唯一の僕の家族だ

この子との出会いは僕が店を開いて間もない頃、店の倉庫で盗み食いをしていたのを見つけたのが始まりだ

最初は懲らしめてやろうと思ったけど『あること』に気が付いたらそんなことをする気にはなれなかった

ラージマウスは集団で生活する魔物なのに、この子はたった一匹で行動をしていた

その事に僕と同じものを感じたのだ

僕は元々森の中に捨てられた孤児だった

村の人魔たちの善意でここまで育ててもらったけど、根本にある寂しさはなくならなかった

この子にも同じ雰囲気を感じたのだ

だから僕はこの子と生活を共にすることを決意した

………最初は苦労の連続だった

中々懐いてくれなくて噛み付いてきたことが何度もあった、本気で食べられてしまうんじゃないかと思ってしまう事も少なくは無かった

ある程度の意思疎通が出来るようになっても大変だった

やって良いことと悪い事をこの子に教えさせるのはとても難しいことだった

だけれども、段々と僕に心を開いてくれるようにもなったし、この子の気持ちがなんとなく分かったり、僕の言う事もちゃんと聞いてくれるようにもなった

喋る事はできないけど、少し前からは商品の陳列みたいな店の仕事も手伝ってくれている

さて、そろそろ閉店の時間だし片付け始めようかな


 「パール、今日はもう店を閉めるから表に閉店の札を出してきて」


 「チュー」


僕がそういうとこの子は小麦をかじるのを止め、レジの後ろに置いてあった閉店の札を担いで店の入り口の方に向かっていった










パールを仕事の時以外でも檻の中に入れたり、首輪を付けて動きを制限したりしない

食事は一緒の時間に食べるし、お風呂も一緒に入る、寝る時は抱き枕のように抱きしめて寝る

それは僕なりにこの子を信用している証のつもりで、それ以上に僕と平等だということを示しているつもりだ

………アクセサリーとしてチーズ柄のスカーフを付けさせているけどね

気まぐれに作った物を付けさせたら思いのほか似合ってて、お客さん達にも好評だったからそのまま付けさせている

本人(?)も気に入った様で、洗うためだったり、お風呂場に入るために外そうとしても嫌がってなかなか外させてくれなかったりするぐらいだ

だけどネズミ(?)なのに妙に綺麗好きで、洗った後のスカーフにちょっとした汚れが付いていたり、体を洗ってあげた時に洗い方が雑だったりすると噛み付いて抗議してくる


 「チュウ………」


パールが何か言いたげに僕の手を甘噛みする

………気のせいかいつも以上にこの子が可愛く見える

おそらくこの子はもう眠たいのだろうし、僕も疲れているからそう見えるのだろう

もうお風呂にも入ったし、パールの毛も乾かしたから寝ようかな






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