霧の外へ

「と言うことでだ、私は迫り来る敵を千切っては投げ千切っては投げと…」

「さっきからずっと同じ話してないかお前…」

「そんな事は無いぞ、まだ五回目だ」

「知っててやってんじゃねえか!」

相変わらずペースを握られっぱなしだ。
一刻も早くこの場から立ち去りたいのだが、やらねばならない事がある。

「少しは私の立場を理解してくれよ…」

「十分理解しているつもりだが?」

「そうは見えないぞ…」

上官の命令で、嫌々ながら捕虜の返還任務についた私を待っていたのは、驚きの連続だった。
その筆頭がこの、隣で延々同じ話を繰り返しているデュラハンだ。
何故か自分が私より立場が上だと思っているようで、こっちが何を言っても聞きやしない。

私は医師だ、いや、軍医と言った方が正しいのかもしれない。
戦場を駆け回り、敵味方を問わず負傷者を治療する、新しい理念に基づいた衛生隊。
そこで私は働いている。今も仕事の最中だ、そうでなければ誰が好き好んで…
こんな敵の拠点にホイホイ赴いたりするものか。
戦いに勝利したのは我々の陣営、反魔物側である。
稀に見る大勝を収めたらしいが、そんな気はしない。
戦いが終わった所で、仕事が終わる訳ではない。むしろここからが本番と言ってもいい。
この捕虜返還もその一部。動けない魔物を纏めて馬車に乗せ運んできたのもそういう理由だ。

「早く帰りたい…」

本音はこれである。
何故か、敵の司令官に会えと言われてしまった。
半ば強引に部屋へと案内されている最中だ。

「ごめんなさいね。一応説明して欲しいから…」

前を行くサキュバスが話しかけてきた。

「まあ、その為に私が選ばれたんでしょうけど…」

意外である。態々味方に見つからぬよう遠回りしてここまで来たのだが。
その味方が一人も居なかった。
攻囲戦が始まってる頃だと上官は言っていたが、どうやら読みが外れていたようだ。
そして城門を潜ってみてわかる、この都市にはまだ秩序があった。
普通、戦いに負けた軍がどうなるかと言えば大体決まっている。
それでも、この都市に居る軍隊は、隅々まで統率され集団としての秩序を保っていた。
敵の司令官も、中々の手腕である事がよくわかる。
それなのに、何で負けたんだろう。いや、何故我々が勝てたんだろう。

「…何だ、急に黙ったりして、今更怖気づいたのか?」

「…いや、ちょっと考え事をしてただけだよ」

「ならいんだ…」

なにがいいのかさっぱりわからなかった。
相変わらず何を考えているのかさっぱり読めない。

「ところで副官殿、隊長は無事なのか?」

「当分動けないけど、死にはしないわ」

「そうか、良かった…」

「それより、まずは自分の心配をした方がいいと思うんだけど」

「……」

「怒ってるわよ、あの子」

「覚悟は出来ている」

彼女の、クラウディアの表情が変わった。
そう言えば、何でこいつも呼ばれているんだろう。
それがここに来てから疑問だった。
ただの平騎士団員だろ?こいつ…

「いやいや、副団長よ彼女」

「だから皆して人の思考を読まんで下さいよ…って、何ですと?」

「彼女は平団員じゃないわ、副団長よ」

「……」

待て待て、そんなハズは無いだろう!?だって本人はそんな事一言も…

「言ってなかったか?」

「聞いてないぞ!」

「なら今知ったんだ、よかったな。また一つ賢くなった」

「生きていく上で全く必要のない知識だと思うぞ」

まずい事になった、確かに彼女と会った時は、騎士団員としか名乗っていなかったはずだ。
それが副長だって?笑えない冗談だろ…

「ああ、急に頭痛くなってきた!すいません、悪いんですけど早退していいですか!?」

「ごめんなさい、もう着いちゃったわ」

「えっ!?」

気がつくと、既にドアの前まで来てしまっていた。
一足遅かった。最も、頭痛いで帰れるとも思えないが。

「連れて来ました」

「入れ」

サキュバスがドアをノックすると、すぐに返事が帰ってきた。
若い女の声だ。…幼女?
その予想が当たっていたとは、思いもしなかった。

「幼女だ…」

「誰じゃこの失礼な男は」

開口一番に出た言葉がこれでは、当然の反応だろう。
しかし、確かに幼女だ。幼女が居た。

「言われた通り、副長を連れて来ました」

「だから、誰じゃこの男は」

「さっき言ってたじゃないですか、負傷者を運んできてくれた人ですよ」

「貴様が、その将校か」

随分偉そうな幼女である。親の顔が見てみたいもんだ。
しかし、随分私が想像する幼女のイメージとはかけ離れているな…
そもそも、幼女に角などあっただろうか…いや、記憶が確かならそんなものは無い。
よく見れば、かなり違いがある。

「間違い探しみたいだ…」

「初対面でこうも好感度を
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