それぞれの決断

聖騎士団が向かって来る、と団長は言う。
敵がここまで入り込める事自体不自然である。。
仮にも隣には味方が居る、その間を易々と通り抜けて来たのか?
戦闘が起こった様子もない、まさか気付かなかったのか?
いや、気付かなかったように見せつけている、と言った方が自然か。

「これで決まりじゃな…」

騎士団の後方にて、思案を巡らせるバフォメットがついに気付いた。
裏切り者はヨハンの軍に居る、それもかなり地位の高い者が…
一人、心当たりがあるのだが、核心にまではまだ迫れていない。

本気で撤退を考えた方が良いのかもしれない。
仮に造反でも起これば、一気に戦線が崩壊してしまう。
だが本隊は既に渡河し敵の本隊と衝突している、と報告が入っていた。
迂回攻撃の作戦が上手く行き、敵の砲兵陣地を落とした。
更に敵の本陣にまで肉薄している、と言う。
引かせれば、逆襲に合うかもしれない。
対応は現場の指揮官に任せているので、自身が出向く必要は無い。
自分も得物を手にして戦場を駆け回りたい、と言う欲求は収まらない。
立場上周りにキツく止められているのだが、その好機が巡って来たのかもしれない。

「とは言っても…」

「ここまで来るのは無理そうですよね…」

傍らには自分の副官殿が常に控えている。
団長に言われ、かなり後ろへ下がった(と言うより下がらされた)のだ。
折角戦闘のチャンスがあるかと思ったが、今回は叶いそうに無いのが正直な所である。

「例え十倍以上の兵力差でも、騎士団を突破するのは不可能じゃろう…」

団長の話では、相手の騎士団の数は三千そこそこ。
一方こちらの騎士団はと言えば、半数を前線に引き抜いて約二百五十騎程。
数字だけを見れば、圧倒的に不利な状況なのだが、魔王軍でそれを危惧する者は居ない。
騎士団の、もとい騎士団長の実力を持ってすれば、突破は不可能に近い。
誰もが、そう思っていた。

「精々足掻いてもらわんとなぁ…つまらんよ」

「敵の心配だなんて、全く…」

そう言うテレーズでさえ、騎士団を突破できるとは思っていなかったのだが。











「敵が見えた!」

小さくだが、敵が見えてきた。相手も騎士団のようだ。
さらに駆ける。とにかく勢いよく突っ込むしかない。
私を先頭に、部下の騎士団が続く。
ただ無策に突っ込むだけではない。考えはある。

「どうするんですか?」

必死に随伴して来る天使が聞いてくる。
そう言えば教えてなかったか…
だが悠長に答えている暇は無い。

「一回しか言わないからちゃんと覚えろよ!」

説明してわかるんだろうか、などと思いながらも手短に話す。
作戦はこうだ、まず突っ込む、その後二手に分かれる。
片方は敵の騎士団を抑えて、もう片方は敵の大将へ突っ込む。
何と言う完璧な作戦だろうか、可能かどうかと言う事を除けばだが。

「それ作戦って言うんですか!?」

「成功すれば作戦だ!」

我ながら頭の悪い言い分だと思う。しかし下手な策はかえって命取りだ。
とりあえず密集してぶつかる。数はこちらが十倍以上だが、そんな事で安心は出来ない。
相手はあの魔王軍騎士団だ。
己の技量を信じてはいるが、一対一でデュラハンに勝てるか?まあ、微妙な所だ。
だから集団で固まって対抗しようと言うわけだ、何せ騎士団で一番強い者が私だから。
圧力が凄まじい、うっすらとだが禍々しいオーラが見える。
相手もこちらに向かい動きだした。砂塵が舞う。

「散るなよ!離れたら死ぬぞ!」

皆必死で固まる。槍を使う者が多い、やはり得物が長いと安心感があるのだろうか。
剣は私と副団長に加えて小数だ。人馬一如、人と同じように鎧を纏い白馬は必死に駆ける。
どんどん近づく…敵が武器を構えた、やはり団長同士やりあうしか無いか。

「構えェ!!」

そう叫ぶ、私も剣を振りかぶり、適当な相手を見定め、間合いを計り、
すれ違う寸前で勢いに任せてそれを振り下ろす。
相手も剣を振り下ろした。剣と剣が重なる。
周りからは、何かが高速でぶつかる音や、人が落馬する音が響き渡る。
間を置かず、突進の勢いに任せて押し切る。
バランスを崩した相手が馬から落ちた。
気を抜かず辺りを見渡す。
周りも戦闘を開始している。
しまった…乱戦になってしまった。
突破しようにも敵味方が入り混じった状態だ、早くも作戦失敗である。
各々自力で突破する事を祈るしかない。
自分だけでも先に駆けようとした時、副団長が叫んだ。

「団長!!後ろ!」

「!?」

その声を聞きとっさに振り返る。

「ハァ!!」

剣を水平に構えたデュラハンがこちらに向かってくる。
進路を塞ごうとした味方が文字通り弾き飛ばされた。
逃がしてはくれないだろう、覚悟を決めて馬の腹を蹴る。

「そいつには近づくな!私がやる!」


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