お誘い

代替わりの時期というものは、多かれ少なかれ混乱が生じるものである。
それは人のみにあらず、魔物にも言える事だった。

前魔王から現魔王へ王位が移る時も、それは起こった。
最も、一番の問題と言えば、自身の身体へ起こった変化が主である。
それ自体はもう慣れた。他にあるとすれば、それは…
心はあまり変わらなかった事である。








ある一室で机に向かい手紙を読む少女が居た。
まだ幼い、それでいて溢れかえるほどの魅力を持ち、
山羊のごとき双角を頭に生やし、手足のそれは、人のものと言うよりは、動物に近い。
毛を纏い足には蹄、手に指は三本で肉球のようなものを有していることからも、
彼女が人間ではなく、バフォメットと呼ばれる魔物であると言う事がわかる。

その外見からは予想もつかないが、彼女は魔界にて魔王軍の一軍団を指揮する権限を持ち。
自身も強大な力を有している、今まさに戦闘から帰還した所であった。
体を休める暇も無く、手紙を読む姿は想い人からの手紙を読む少女の如しであった。
しかし読んでいる手紙、それはそんな生易しいものではない。
それは、援軍を求めるという内容であった。




「…ふむ」

そう呟き、読んでいた書簡から目を離す。
手を伸ばし、置いてあったティーカップを手に取り口につける。

「冷たい…」

「そりゃあ淹れたのは1時間前ですからね」

声がした方へ視線を向ける、立って居たのは女性。

「そんなに…」

「気がつきませんでしたか?」

全く、と小さく肩をすくめて見せる。
その様子を見て女性が苦笑する。

「時間を忘れる程夢中になって…どんな素敵な恋文ですか?」

「相変わらずじゃな」

やれやれ、と言った表情でバフォメットが首を横に振る。

「それはもう、何と言っても私はサキュバスですからね」

その女性もまた、サキュバスと呼ばれる魔物であった。
角や腰から生えた羽、ハート型の尻尾などが彼女を人ならざる者であると物語っている。
そしてその男の欲望を具現化したような豊満な肉体の持ち主でもある。
自身の幼い体とは両極端だな、と彼女を見る度に思う。








「恋文ならまだマシじゃったよ…テレーズ」

そう言ってまたうーむ、と小さく唸る。
その姿がまたどこか愛らしくて可笑しい。
などと思いながら、彼女…テレーズが小さく笑う。

「わかりやすく言えば、兄弟喧嘩じゃよ」

「まさか喧嘩の仲裁でも頼まれたとか?」

「割と当たっとるよ」

まさか、とテレーズが目を丸くする。
その仕草一つを取ってみても、男が喜びそうなものである。
自分には決して真似が出来ない。

「まあ問題は仲裁ではなく、喧嘩に加勢してくれと言う事なんじゃがな」

「お友達を大勢引き連れてですか?」

「はてさて、何人集まるかな?」








ある王国があった。そこは、どちらの陣営にも属さず、中立を保っていた国である。
そこの主が、先日亡くなった。
主には二人の子がおり、兄が国を継いだと言う。
そこまでの情報なら、当然バフォメット以下の魔王軍も知っており、今更驚くような事ではない。
問題はそこから、その王位継承に敗れた弟が事の発端である。
彼は兄に殺されかけた、暗殺である。
命からがらその弟が逃れた先が、反魔物勢力の国であった。
元々、先代王はその国から妻を貰っており、親戚筋に当たるのである。
その国に弟が泣きついたのだ。

「問題なのは、兄のほうがどうやら親魔物側の勢力へ入ろうとしておるんじゃよ」

「それは良い事じゃないんですか?」

「その兄…現王は親魔物派への参入をいい事に、反魔物勢力へ恐喝を始めたのじゃ」

「恐喝?」

「反魔物勢力範囲の村や拠点を略奪し焼き払ったりしたようでな、国境辺りで小競り合いも起きとる」

更に、その兄は弟が逃げ込んだ先の国に、本来先代王に妻が嫁ぐ際約束された持参金を要求した。
先代王が死んだ時点で、持参金が支払われてなかったのが理由だった。非常に高額である。
その条件を飲めないのであれば、領土の割譲をしろと言ったのである。
実際国境付近の拠点が何箇所か襲撃を受けている、との情報もある。

「アホじゃなこいつ」

「ちょっとやり過ぎな気もしますね…」

そう言いながらも、恐らくテレーズも同じ思いだったろう。
要は自分たちを勢力争いに巻き込もうとしているのだ。
基本的に人間同士の争いには加担しない、しかし、この件には親魔物派の国も参加するだろう。
そうなれば、自然と参加せざるを得なくなる。同胞に危険が及ぶ。

「そのクセに、他を頼るか」

「あの国、そんなに強かったですか?」

「いや、兵力も戦力や国力も良く言えば平均的、悪く言えば特に恐れることは無いな」

王国自体、他国と比べ絶対的に強い国でもない。
動員出来
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