国家は防衛だけやってりゃええんよ
よっしゃ、ほな治安は市民が守ろか。
どんな大層な事でも発端なんぞ適当なものだ。
熟練した商船の群れと、先進的な造船技術に支えられた貿易や漁業。
長い年月をかけて干拓された豊かな後背地。
更には戦乱を逃れた亡命者などの資本や技術。
とりあえず、代表的なものだけでもこれだけある。
自由な気風が売りのこの都市だが、実の所は旧世代の自治区の最後の生き残りでもあった。
土地貴族や聖界貴族などの力がそれほど強く無い。
商業、産業資本家でもある上層市民などの指導される都市が、自治権と自主性を保っているに過ぎない。
「それがこの都市である」
「はあ…さいですか」
さりげなく日常会話に混ぜる努力くらいすればいいのに。
なんて思った所で口には出さない。
「おはよう、今日もいい天気だ」
「どこがですか」
窓を見れば、まだ昼前だと言うのに辺りは薄暗く、どんよりとした空気を漂わせていた。
年が明けたとは言え、まだまだ冬真っ盛りの今日この頃、むしろこれからが本番ともいえる。
「こういうのは気持ちの問題だよ」
精神論で天候を変えられたらどれ程便利な事だろうか。
とは言え、相手は上官なので適当に話を合わせておくのが無難だろう。
「フーシェ隊長、会議の時間です」
部下が開けっ放しのドアから顔を覗かせ、やる気の無い敬礼をして足早に立ち去る。
仮にも上官に対してその態度は無いだろうと思ったのだが、当の本人はあまり気にしていない様子。
「さて、今日は何人殺されたと思うね?マクファーソン君」
「やめて下さいよ隊長…」
面白く無い冗談だ。
この上司…フーシェ隊長のユーモアのセンスは最悪だと思う。
しかし口には出来ない。だって部下だもん。
会議室と言っても、そんな豪勢な所ではない。
数十人程度が部屋に詰め込まれている。
無論、椅子など無い。全員立ったままだ。
ただでさえそんなに広く無い部屋に汗臭い男が達集まる。
一部の人間しか喜ばないであろうそんな状況だが、これも仕方ない。
だって仕事だもん。
上の方からお達しが来たのは昨日の事。
ある事件が切っ掛けで、憲兵隊もその捜査に投入される事になった。
確かに、国家憲兵隊と言う名目上、犯罪捜査や治安維持なども行う。
しかし、ここは自治都市だ。
市民たちが独自に結成した市民隊などが普段は治安維持にあたっている。
ので、ここでの憲兵隊の役割は少ない。
普通の奴なら、軍隊に入っても憲兵にはならんだろう。
なる奴と言えば、怠け者や変人くらいだ。
では、この俺はそのどちらだろうか?
恐らく前者だ、適当に雑務をこなして少ない捨扶持を貰って細々と生きる。
そんな考えを持つ者はここにはたくさん居る。
「マクファーソン君、聞いているのかね?」
「えっ!?…あ、ハイ。聞いてます」
檀上には、フーシェ隊長がいる。
この人はまた無駄に話が長くて困る。
一日の労働時間でキツイのは、この隊長の朝の御言葉を聞いている時くらいなものだ。
「では聞こう、今日で犠牲者は何人だ?」
「…わ、わかりません」
「やれやれ、これは重要な話なのだよ…今までの犠牲者は、全部で10人だ」
「…増えてますか」
「また昨夜被害が出たようだ、それも2人も」
今度は2人か…。
思った事と言えば、それくらいだった。
最早その位しか思う事が無いほど、人死にが日常化してきている。
ここ数日、都市で妙な事件が起こっていた。
連続殺人である。
殺し自体そう珍しいものでもないが、たった数日で既に10人も犠牲になっている。
これは尋常ではない。
普通なら、こういう事は市民隊に任せるのだが、どうみても趣味で集まっている連中の手におえる事件じゃない。
と、言う訳で。我々憲兵隊も捜査に投入されるに至ったわけだ。
「被害者は?」
「1人は娼婦、もう1人は初老の男性。お互い接点は無しだ」
「またか…」
被害者の数は10人だが、それぞれ全く無関係な人物だ。
性別、年齢、職業、交友関係、その他諸々…
調べてみても、何の繋がりも無い。
単に快楽目的か、精神異常者の類か。
はっきり言って何もわからない、完全に手詰まりだ。
「さて、今日こそ何か進展があったかな?」
とりあえず、捜査の進展状況について確認しあう。
まず問題なのは、この事件に敵対する勢力が関わっていないかどうかだ。
例えば、反魔物領の人間、敵国からの亡命者等を洗い出す。
ちょっとでも怪しい者が居れば、関所などに記録が残っているはずだ。
しかし…
「怪しい人物の往来はありませんでした…」
当たり前だ。
怪しい奴が堂々と関所等の人目の多い所を通るわけがない。
もしかすると、どこぞから侵入して潜伏しているかもしれない。
「私はね、どうも単独行動だと
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